衆院東京15区補選、演説さえまともにできない異常事態に……選挙ライターに聞く“迷惑系”立候補者の問題点
4月28日に投開票される、衆院東京15区の補選。自民党が事実上の不戦敗となる異例の選挙だが、それ以外にも"異常"と言っていい事態が発生しているという。 【画像】畠山理仁『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』(集英社) その発生源と言えるのが、この選挙に出馬している「つばさの党」の根本良輔候補、そして同党の黒川敦彦代表である。つばさの党の選挙運動は過激かつ独特。いわば「迷惑系」とでもいうべき存在となっているという。 そんな東京15区補選の状況はいかなるものなのか、そして現在発生している事態にはどのような問題があるのか。選挙に関する取材を重ね、『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』(集英社)『コロナ時代の選挙漫遊記』(集英社)といった著作のあるフリーランスライターの畠山理仁氏にうかがった。 ■つばさの党による演説の妨害が発生 ーー今回の東京15区補選について、改めて現状をお伺いしてよろしいでしょうか? 畠山:今回の選挙には合計9人の候補者が立候補しているんですが、通常の選挙とは異なる事態になっています。というのも、「つばさの党」が別陣営の候補者の街宣場所に行って、大音量で自分たちの主張を被せるというやり方で選挙運動を展開しているんです。 ーーヤジ程度だったらわかりますが、演説が聞き取れないほどの音量で妨害してくるわけですね。 畠山:通常であれば各候補者が選挙区の中でそれぞれ演説をして、それを有権者の方々が聞いて、演説の内容も材料にしつつ候補者を判断して投票するのが普通の選挙ですよね。ですが今回の補選では、他の候補者がまともに演説ができないような状態が続いているんです。 ーー問題がいろいろと発生しそうです。 畠山:選挙戦も折り返し地点を超えましたが、いまだに各候補者が自由に選挙運動を展開するのが難しい状況です。通常であれば「何月何日にどこで演説をします」というのを告知して、そこに有権者を集めるんですが、現在はほとんどの陣営がどこで演説をするかを告知しなくなってしまいました。場所を告知してしまうとつばさの党の人がきて、ちゃんと演説できなくなるのが容易に想像できてしまう。演説を聞きたいという人にとっても、安心して聞けない状況です。 ーー告知抜きで演説をしても、誰も話を聞きに行けませんね……。 畠山:とはいえ、例えば「ファーストの会」が推薦している乙武洋匡さんの演説だと、小池百合子さんが応援に来ることになります。そうなると演説前から警備が入るので、場所がばれてしまう。そもそも妨害行為を警戒して警察や警備が身構えているので、演説会場は物々しい雰囲気です。演説を聞きにきた人も安心して聞けません。そこにつばさの党の人がきて大音量で被せてくるのが、「乙武さん、15年間で5回の不倫を許した奥さんに『訴えるぞ』って言ったのか。答えろ」とか「小池百合子、学歴詐称疑惑について説明しろ」というような主張をかなり厳しい口調で訴えた演説です。子連れの有権者は耳を塞いでしまうようなことになっていますし、通常であれば小池さんがくるというのが大々的に告知されて人が集まる場合でも、小競り合いが予想されるので人が集まらないという事態になっています。 ーー確かに、子連れだとその状況は厳しいでしょうね。 畠山:実のところ、こういう取材で「つばさの党」という名前を出すのも、彼らの宣伝になってしまうという側面があります。騒ぎを起こして注目させることで自分たちの主張に耳を傾けさせる方法をとっているので、それはどうなのかと。つばさの党以外にも「日本保守党が演説の場所を譲らない」とか、細かいところで他の揉め事も起きているんです。これらは総じて、紳士協定で譲り合ってきた従来型の選挙を破壊したり、選挙というものをハックしようとするやり口と言えます。 ーー候補者の演説を聞くことすらできないというのは、民主主義にとってかなりのピンチだと思います。 畠山:選挙というのは候補者の主張がまずあって、それについて有権者が判断するために街頭演説が行われているわけです。なのに主張がそもそも聞き取れない選挙というのは一体有権者にとってなんなんだろうと思います。さらに、「街頭演説の場で揉め事が起きる」ということで、演説や選挙自体にあまり参加したくない、自分たちから入っていきたくないと有権者に思わせてしまうのも由々しき事態です。 ーー選挙そのものを忌避するようになっちゃいますよね……。 畠山:一方で、つばさの党の主張の方法に対して現行法で対処したり、スタッフや支援者がちゃんと候補者に演説をしてもらう状況を作ることができていないという点にも、モヤモヤしたものを感じます。「ああいったやり方にうまく対処する方法を選挙期間中に編み出して、有権者が普通に演説を聞ける」という状況を作ることができない人たちに、政治を任せていいんだろうか……と思います。 ■既存マスコミの影響力が露呈? ーー確かに、「大音量で暴言を言って妨害してくる」という攻撃方法自体は単純ですし、もう少しうまくやれないのかというもどかしさも感じます。ちなみに、今回の補選で他に注目しているポイントはありますか? 畠山:今回は自民党が候補を立てていないので、自民党支持者の票が誰のところに集まるのか、また自民党支持者はこういった状況では選挙に行かないのか……という点がひとつ注目のポイントだと思います。 ーー確かに、自民党支持者の動きは注目すべきですね。 畠山:あと、インターネットとテレビを中心とした既存マスコミの影響力の大小がわかりそうな選挙でもあります。というのも、今回の候補者9人のうち、6人は無所属なんです。衆議院議員選挙の小選挙区では無所属の候補者は政見放送ができないので、9人中3人しか政見放送を利用することができません。テレビで情報を得ている人からすれば、残りの6人は「あんな候補いたっけ?」という感じだと思います。 ーー以前だったら、事実上3人の候補の戦いになっていたわけですね。 畠山:ただ、残りの6人の中にはインターネットの中で支持が高い政治勢力から推薦されている候補もいるんです。だから、街頭演説ができないという点も含めて、テレビなど既存マスコミとインターネットとの影響力の強弱というか、どちらの効果が強いのかが、今回の選挙結果には現れると思います。 「演説」という、ある意味で民主主義の根幹に関わる部分をハックするような手法をとっているつばさの党。そして、その影響を受けざるを得なくなっている他の候補者たち。いびつな状況は、いまでも東京15区において繰り広げられ続けている。果たしてこの異常な選挙の結果はどうなるのか、28日の投開票が待たれる。
しげる