出る杭は無視される...「部下に主体性を求めない」上司の本音
仕事のやる気を保てなければ環境を変えよ
――上司は部下に「管理された主体性」を求めるとのことですが、そこから逸脱した主体性とは具体的にどのような事例があるでしょうか。 【太田】極端なことを言えば、本当に自立した社員は「無能な上司はいらない」と考えるはずです。しかしこのような強い姿勢は、外資系企業ならともかく、JTC(ジャパニーズ・トラディショナル・カンパニー=伝統的な日本企業)では受け入れられないでしょう。 【金間】そうですね。若手社員が外部の取引先をフラットな目で見たときに、「この会社とは取引をやめたほうがいい」と感じることもあるはずです。彼ら彼女らは自社の利益に鑑みて合理的な判断をしているのですが、上司からすればそこまで口を出されると困るというのが本音です。 そんな上司の態度を若手社員は汲み取り、「管理された主体性」の枠から外れないように「均衡」を保っている。いまの若者たちは、上司の言うことにうまく合わせるコミュニケーション能力を備えていますから。 【太田】本音と建前の乖離は、家庭での親子関係でも見られます。親が外では「若者は積極的に世界に羽ばたくべきだ」と言うけれど、本心では子どもをなかなか手放したくない、とか。 【金間】まさにそれです。たとえば、ある大学が発展途上国への留学を卒業のための必須要件に設定したとしましょう。すると、表向きには賛同する人は多い。これからの日本にとって、そういった国々との付き合いは大切ですからね。ところが当の保護者はというと「うちの子を海外に行かせるなんて心配」と言います。 【太田】自分の身近な関係において大きな変化は起きてほしくないけれども、自らと距離のある部分では変わってほしいと考えているのでしょう。 【金間】会社で上司は部下に、管理できる範囲での主体性しか求めていない。一方で部長クラス以上になれば、会社の経営にとってイノベーションが必要であることも認識しているはずです。このジレンマを太田先生はどう考えていますか。 【太田】人は短期的な改善はできても、長期的な革新にはなかなか乗り出せないものです。だから私は、上司や部下個人の問題ではなく、「第三の力」が必要なのではないかと考えています。それがリーダーの資質なのか、仕組みなのか、外圧なのかは難しいところですが。 【金間】外圧がないと変わらないのは日本らしいですが、そうなるとジリ貧で選択肢が限られてきますから、僕はやはり内発的に変わる必要があると思うんです。 【太田】企業における社員個人のモチベーションで言うと、自らの意識の改善や会社の取り組みで仕事へのやる気が短期的に向上することはあるでしょう。 ただ私は、中長期的に見れば、仕事へのモチベーションが上がらない場合は転職や独立するしかないという立場です。業務自体が楽しくないなら出世や給与面に注力する選択肢もありますが、どれだけ頑張っても課長、部長止まりかもしれない。それだけでモチベーションを保つには限界があります。 【金間】環境が変わらなければモチベーションが上がらないとのご指摘、同感です。太田先生のご著書『何もしないほうが得な日本』のメッセージにもつながりますが、いまは「出る杭は打たれる」というよりも「出る杭は無視される」なんですよね。熱意をもって会社に新たな提案をしても、面倒くさいことはスルーされてしまう。そして仕事へのモチベーションは減退していく。「何もしないほうが得」なシステムを変える必要があります。 【太田】よく「出る杭は打たれても、出すぎた杭は打たれない」と言われますね。日本は同調的な社会ですが、突出しすぎた者は意外と受け入れられる気がします。 【金間】それは、会社でも学校でも「何もしないほうが得」な状況を変えるヒントになるかもしれません。周りが無視できなくなるくらい出すぎる人が、日本にもっと増えてほしいと思います。
太田肇(同志社大学政策学部教授),金間大介(金沢大学融合研究域融合科学系教授)