大山のぶ代さん＝平成18年6月（箱崎宏子撮影）

優しく、ハスキーで、独特のテンポの「ぼく、ドラえもん」。唯一無二の声で子供たちの心をつかんだ大山のぶ代さんが、90歳で旅立った。原点は中学時代、個性的な声をからかわれたこと。痛みから始まった声優道は、大人になっても脳裏に残る「ドラ声」として大きな実を結んだ。 【写真】25周年を迎えた「ドラえもん」収録中の大山のぶ代さんら声のレギュラー出演者たち 「お前の声はどこから出ているんだ」。クラスの男子がそうからかい、取り囲む。負けずに突き飛ばして「何よ」とやり返したが、次第に声がつまって出なくなった。 そんな娘に母親は、「明日から声を出すようなクラブに入りなさい」。放送部の劇で主役のかわいい声以外を全部演じ、演劇部からもスカウトが来て、道が開けた。「あのとき、本当に落ち込んでいたけれど、母が『もっと声を出しなさい』と言ってくれた。それがよかった」と、平成18年の本紙取材でかみしめるように語った。 40代半ばからのドラえもんの仕事では、原作者の藤子・F・不二雄さんがスタジオを訪れ、「ドラえもんって、ああいう声だったんですねえ」と語った逸話もある。大山さんによると、ドラえもんの第一声は台本で「やあ、お前がのび太か」というやや乱暴口調だったが、「こんにちは、ぼく…」の自己紹介に改めたという。大山さんがスタッフとともに作り上げたキャラクターだった。 降板した17年には、さみしさをにじませつつも「すてきな作品になって、永遠に続いてほしい」とエールを送った。母親に励まされて進んだ道で、ドラえもんがのび太を励ますように、子供たちを声で包み勇気づけた声優人生だった。