J2千葉7発大勝とリンク…欧州リーグ得点王に長身FWが多い理由 「位置的優位」「数的優位」の幻想【コラム】
大勝した千葉のキーマンはGK藤田和輝、欧州でも問われる配球力と長身FWの存在
J2リーグ第16節、ジェフユナイテッド千葉が7-1で愛媛FCに大勝している。愛媛の1点は千葉のGK藤田和輝によるオウンゴールだった。 【動画】「何が起きた?」 GKがフェイント失敗…不運な流れで決まってしまったオウンゴール 足もとのボール操作を誤ってコロコロとゴールラインを通過という珍プレーの類だったのだが、この試合の戦術上のキーマンはGK藤田だったのではないかと思っている。 愛媛のゴールキックに対して、千葉はフィールドプレーヤー10人をマンマークした。1人が抜かれたら一気にピンチになるリスクがあり、とくにセンターバックの心理的な負担が大きそうな守り方だが、千葉はこれで愛媛のビルドアップを完全に封鎖した。愛媛はゴールキックを大きく蹴るしか選択肢がなくなっている。 一方、千葉は愛媛のハイプレスを丁寧に外していた。ショートパスの受け手をマークされた時はGK藤田を使ってビルドアップ。GKからトップの小森飛絢へ低い弾道のロングパスが直接届けられる場面もあった。藤田は足もとの上手いGKでキックの精度も高い。仮に愛媛が千葉のようにマンツーマンで10人をマークしてもGKは空いている。GKから精度の高いロングパスをFWに届け、そこで1人外せば決定機を作れる。 相手のビルドアップを封じ、自分たちは相手のプレスを外す。その鍵を握っていたのはGKのクオリティーだったわけだ。そして現代サッカーは個々のクオリティーが今まで以上に求められる段階に入ったと言える。 ポジショナルプレーの説明でよく使われた「位置的優位」や「数的優位」は幻想だと分かってきたからだ。 確かにGKがビルドアップに加われば、攻撃側には1人の数的優位がある。守備側のGKが攻撃側の誰かをマンマークしない限り、10対10のマンマークはできても11対11のマークはできないからだ。ただ、フィールドプレーヤー全員がマークされている限り、守備側の誰かがマークを捨ててGKに向かうか、GKがドリブルで前進していく以外、数の優位は利用できない。 ここでまず問われるのはGKのクオリティーだ。フリーで蹴れる利点を活用し、藤田のようにFWに高精度の配球ができる技術が求められる。さらに、一時的に誰かがフリーになる「位置的優位」がなくても、つまり全員が相手にマークされている状態でも、フィールドプレーヤーにボールを前進させられる技術があるかどうか。 欧州リーグの得点王ないし得点王候補を見ると長身FWが多い。 アーリング・ブラウト・ハーランド(マンチェスター・シティ)、アレクサンデル・スルロット(ビジャレアル)、ハリー・ケイン(バイエルン・ミュンヘン)、ルーク・デ・ヨング(PSV)、ビクトル・ギェケレシュ(スポルティング)は190センチ近いか、それ以上だ。 それぞれスピードや技術に特徴があり、長身だからといってヘディング専門というわけではない。長身FWが多いのは、ゴール前よりもっと手前で高さが必要だからではないか。相手にフィールドプレーヤー全員がマンマークされた時、ロングボールの競り合いに強いFWがいると有利だからだ。これも個のクオリティーである。 ポジショナルプレーはその普及によってタネが分かってしまい、逆に「位置的優位」、「数的優位」を失った。ここからは1対1を制するクオリティーが勝負を分けていくことになるのだろう。 [著者プロフィール] 西部謙司(にしべ・けんじ)/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。95年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、「サッカー日本代表戦術アナライズ」(カンゼン)、「戦術リストランテ」(ソル・メディア)など著書多数。
西部謙司 / Kenji Nishibe