五輪景気は“過大評価” 2020年秋は本当に不況に転じる?
2020年のビッグイベントである東京五輪・パラリンピックには、日本の経済界からさまざまな期待が集まっています。そこでまことしやかに言われているのが五輪後の景気の落ち込みです。第一生命経済研究所・藤代宏一主任エコノミストに寄稿してもらいました。
「良くも悪くも」大きい五輪への期待
2020年に入り、筆者は数多くの企業経営者(非金融・中小)と今年の日本経済について意見交換する機会を得ました。そこで改めて感じたことは「良くも悪くもオリンピックに対する期待が大き過ぎる」――。この一言に尽きます。
建設・土木、東京近郊の観光業など五輪特需の恩恵を強く受けそうな企業ならまだしも、製造業やその他のサービス業に携わる方々からも「今年はオリンピック景気に期待」、「オリンピックまでは良さそう」、「オリンピックが終わったら」といった具合に口々に「オリンピック」が出てきました。 ここで、なぜ五輪によって景気が良くなるのかを再考します。それは取りも直さず五輪に向けて競技場、選手村、交通インフラなどを整備するからです。今大会では1964年大会時に利用された東京体育館や代々木体育館に加え、東京国際フォーラム、武道館、国技館といった既存設備を多く活用する反面、新国立競技場を筆頭に東京アクアティクスセンター、有明アリーナ、有明体操競技場、選手村などを新たに建設するため、そこで景気刺激効果が発生します。また近年のインバウンド需要拡大と相まって、交通インフラについても五輪を契機に刷新する動きが広がりました。羽田空港の能力拡大はその代表例です。(※なお「五輪のためにホテルを建設するから」という説明をしばしば聞きますが、五輪・パラリンピックの開催期間、すなわち1か月半程度の観戦客需要を見込んでホテルを建てる民間業者は存在しないでしょう)。
五輪需要のピークは開催2年前
では、五輪に関連した建設投資が最も盛んになるのはいつ頃でしょうか。ここが一番重要なポイントなのですが、2015年に日本銀行スタッフが発表した分析によれば、通常は開催の2年前にそのピークが来ると示されています。すなわち今回のケースでは2018年です。ではなぜ2年前にピークがくるのかというと、これは極めて単純な理由です。五輪に間に合うようなスケジュール感を前提にすれば、最も資材と労働力の投入が盛んになるのは開催の2年前頃になるからです。オリンピックの半年前にあたる現時点で新国立競技場が既に完成していることを踏まえれば、建設投資がピークアウトしているのは自明です。現状は、日銀スタッフの分析通りになっていると思われます。 冒頭で「良くも悪くもオリンピックに対する期待が大き過ぎる」としたのは、オリンピックだけでは、日本全体の景気動向はおろか建設需要すら説明できないからです。2019年12月に会計検査院が報告した国のオリンピック関連経費と、東京2020大会組織委員会と東京都が見込む事業費を合わせると、関連経費の総額は6年間の累計で3兆円とされています。仮にこの額がそのまま(しかも一括で)GDPに計上されるとしてもGDPの0.5%程度に過ぎません。オリンピックの直接的な経済効果は多くの方の想像より小さいのではないでしょうか。