原作の映像化に原作者がどこまで関わるか?「ダメな(映像)作品がもっとダメになってしまうことがある」作家・夢枕獏が学んできたこと
夢枕獏は脚本を読むか?
──監督の佐藤嗣麻子さんとは彼女が10代の頃からのお知り合いだとか? 彼女と知り合ってからはかれこれもう40年近くで、34~35年前ぐらいにはいつか『陰陽師』(の映像化を)やってよねっていう話はしてたと思うんです。 彼女とは個人的な繋がりもあるので、今回の『陰陽師0』について話しているときに、「雲中供養菩薩を出してよ。日本から世界発信の映像を作るんだったら雲中供養菩薩は非常に役に立つアイテムだから」とちょっとしたイメージを伝えました。 また、劇中で晴明が呪文を唱えるシーンがありますが、漢字でも梵語(サンスクリット語)でもいいので呪言がCGとして現れて、揺れたり歪な形になったりしながら唱え出てゆく映像を頼むよと、その2つだけはお伝えしました。 一部は上手に実現してくださっていて、やっぱりそこはすごく綺麗なシーンだと感じましたね。 ──映像化の場合、脚本は読まれますか? あまりに忙しいときには読めない場合もあるのですが大抵は読みます。しかし、読んでも何も言わずに「よろしくお願いします」という感じですね。「ここをこうしてください」とかはないので、個人的には、やはり全面的に託したほうがいいと思っています。 スタッフ全員が「つまらなくしてやろう」とは思っていないわけですから。みなさんが面白くしようと尽力され、ご自身それぞれが全力でやってくださっているわけで。仮に原作者が口を出したら、駄目な作品はもっと駄目になると思うんです(笑)。 ──悪い方向に進んでしまっていたものが、もっと悪くなると。 言うとかえって混乱が起きて、後から「私が言ったことは全部忘れてください」と言ったときにはもう手遅れの状態になっている。だからいっそ何も言わないほうが作品は良くなるだろうなと。 原作者にとっては、厳密には自分の描いたイメージとは当然変わってくるものなので、それはもうね、口出すことは慎んだほうがいい場合が多い。もし介入するんだったら本業を休んで本気で関わらないと。個人的な経験からそうやって学んできました。 ──スタッフとの関係性、関わり方やタイミングなど本当に難しいのですね。 個人的には、監督を誰に任せるかまでは口を出してもいいと思っています。仮に「この人とこの人とどっちがいいですか?」って言われたら、「じゃあこちらの人でお願いします」というのはいいと思うんだけど。 その後で、作者が映画に口出しすると絶対ややこしくなるんです。言うとこちらも「言ったのに…」っていう気持ちが生まれると思うんですよね。それで多分、作品が歪なものになってしまうんじゃないかな。 取材・文/米澤和幸(lotusRecords) 撮影/殿村忠博 場面写真/©2024映画「陰陽師0」製作委員会