対応にバラツキの南海トラフ臨時情報 教訓、どう生かす?
南海トラフ巨大地震の臨時情報(巨大地震注意)が2024年8月に初めて発表された。各自治体や事業者などの対応にはバラツキが出て、戸惑いも広がった。その教訓をどう生かすべきなのか、香川大学地域強靱化研究センターの磯打(いそうち)千雅子特命准教授(地域防災・危機管理)に話を聞いた。【聞き手・佐々木雅彦】 【リスト】地震に備えて確認しておきたい10項目 ――臨時情報が出た時、各地でイベント開催を巡って対応が分かれました。閉鎖した大規模海水浴場もあれば、高知の「よさこい祭り」と徳島の「阿波踊り」では避難経路などを周知した上で開催を決めました。何を基準に判断すればいいのでしょうか? ◆内閣府が定めた「南海トラフ地震の多様な発生形態に備えた防災対応検討ガイドライン」には「巨大地震注意」への対応として、「地震の発生に注意しながら通常の生活を行う」と記されていますから、対策を知らせて開催に踏み切ったのは適切だったと思います。 ただ、大イベントの主催者や観光地ではガイドラインによらずとも、災害時の避難計画を立てているはずです。それを確認し、関係者に周知するいい機会になったのではないでしょうか。 ――学校は夏休み中でしたが、通常の時期だったら、休校すべきかどうかで混乱したかもしれません。 ◆判断はイベント開催の是非と同じです。学校ごとに、子どもの保護者への引き渡しや避難の方法が計画されていると思います。改めて保護者や子どもに「もし災害が起きたら、このような手順で対応します」と周知した上で登校を続けるという判断は間違っていません。 ――今回、避難所を開設した自治体もありました。ガイドラインに従えば、開設の必要はなかったということでしょうか? ◆そうですね。でも不安を抱く住民への対応として開設せざるを得なかった自治体もあったと思います。 それも含めて強く感じたのは、地域住民と自治体の防災担当者との間でしっかりと意思疎通ができるチャンネルの少なさです。例えば、地区防災計画の取り組みを通して普段から、住民側と防災担当者が顔見知りになるくらいに情報交換していれば、今回のように「じゃあ、どうすればいいんだ?」と迷った時でもすぐに連絡を取り合えます。 ――さまざまな意味で、今回を防災啓発の機会ととらえるべきなんですね。 ◆素早く対応した自治体もありました。職員が8月中旬から、自力避難が難しい高齢者や障害者といった要支援者宅を訪問して避難方法などを確認し、「個別避難計画」の作成を進めました。見習いたい取り組みですね。 さらに言えば、自治体として「こんな取り組みをしています」と広くアピールすれば、住民も「自分なら何ができるのだろうか」と考える動機付けになると思います。 ――今回、南海トラフ巨大地震への私たちの意識は一気に高まりました。 ◆臨時情報の発表は初めてのことだったので、さまざまな課題が浮き彫りになりましたが、すばらしい行動もありました。例えば、ある学童保育は、臨時情報発表当日の夜のうちに、無料通信アプリ「LINE(ライン)」で保護者に「引き続き預かり続けます」と一斉通知しました。地震が発生した場合の対応も具体的に説明したそうです。そうすれば保護者も安心できます。混乱時に自分ができることを見極めて判断する。そんな人が増えるきっかけになってほしいですね。 ◇「速やかに対応できた」市町村22% 内閣府は、2024年8月の南海トラフ地震臨時情報での自治体や事業者の対応についてアンケート調査を行い、11月に結果を公表した。被害が想定される1都2府26県と707市町村、各地の事業者を対象に実施。全都府県と571市町村、鉄道会社など69の「指定公共機関」と観光業など337事業者から回答を得た。 「臨時情報の制度や取るべき対応」について「十分認知し、速やかに対応できた」と回答した市町村は22%、指定公共機関は51%、事業者は15%にとどまった。避難所を開設した市町村は5%だった。 発表を受けて実施した措置については、主催に関係したイベントを「中止または延期」した市町村が6%、公営施設の休止または利用を制限した市町村が5%だった。開催にあたっては「避難経路を確認した上で、閉鎖していた海水浴場を再開」「帰宅困難者受け入れ施設との調整を実施」などの記述回答もあった。 ◇南海トラフ地震臨時情報 巨大地震につながる恐れがある場合に注意や警戒を促す制度。想定震源域周辺でマグニチュード(M)6・8以上の地震が起きると、気象庁は「調査中」を発表する。その後、地震の規模に応じて「巨大地震警戒」「巨大地震注意」を出し、いずれにも当てはまらないと判断すれば「調査終了」を発表する。 2024年8月8日に宮崎県沖で起きた震度6弱の地震で、気象庁は「巨大地震注意」を発表。「新たな大規模地震が発生する可能性が平常時に比べて数倍高まっている」として、対象地域は1週間程度注意するよう呼びかけた。同15日に注意期間は終了した。