村上春樹「作家は日々、机に向かって正しい言葉を探し求めるのが仕事なんですが…」石川啄木の短歌に共感することとは?
作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00~19:55)。2023年12月31日(日)の放送は「村上RADIO~いろんなお便りを読みながら大晦日~」をオンエア。 今回は、リスナーの皆さんからいただいたメールを読んで、村上さんがお答えしていく特別回。仕事にまつわる質問から、プライベートにまつわるものまで幅広い質問に答え、大晦日にぴったりな楽曲とともに紹介しました。 この記事では、「今日の言葉」について語ったパートの内容を紹介します。
<クロージング曲> Toots Thielemans「Adagio Assai From Concerto For Piano And Orchestra In G Major」
今日のクロージング音楽は、ジャズ・ハーモニカのトゥーツ・シールマンズが演奏する、モーリス・ラヴェル「ピアノ協奏曲ト長調」の第二楽章、「アダージョ・アッサイ」です。あまり取り上げられることのない音楽ですが、ほっとする美しいメロディーです。村上RADIO、今年お届けする最後の曲になります。 今日の言葉は石川啄木さんの短歌です。歌集『一握の砂』に入っているものです。前にも一度『一握の砂』から歌を紹介したことがありますよね。うちの本棚にある、箱入りの古い本なんですが、ときどき引っ張り出してページを繰っています。 “人間のつかはぬ言葉 ひょっとして われのみ知れるごとく思ふ日” この気持ち僕にもわかります。作家は日々、机に向かって正しい言葉を探し求めるのが仕事なんですが、ひょっとして「人間のつかはぬ言葉」みたいなものが、ふと見つかるんじゃないかという幻想を抱いてしまうことが、ときとしてあります。誰も使わない言葉なんだけど、だからたぶん誰にも理解できないんだろうけど、僕の心の風景を完璧に表しているんだよな……というような言葉。見つかるといいですね。 それではまた来月、また来年。(ニャーオ) * 番組では他にも、「作家さんとしてAIについてどう思いますか?」「どうやって的確で分かりやすい文章を書いていますか?」など仕事にまつわる質問から、「男女間のパートナーシップを良好に保つために、村上さんが心掛けていることは?」「村上さんは何もやる気が起きないときはどうしますか?」などプライベートにまつわる質問にも答えました。 (TOKYO FM「村上RADIO~いろんなお便りを読みながら大晦日~」2023年12月31日(日)放送より)