舞台降りれば整形外科医 二つの世界生きるプロバレエダンサー・工藤加奈子さん(青森市出身)
スポットライトの中では華やかなバレエダンサーに。舞台を降りれば患者のけがを治療する整形外科医に。青森市出身の工藤加奈子さん(41)=東京都在住=は二つの世界をしなやかに生きている。 バレエ歴は40年近く。原点となるのが、母親もバレエを習っていた「春日井バレエ・ダンスギャラリー」(同市)だ。 2歳になる前、母親と見た発表会で、キラキラの衣装が工藤さんのハートを射貫いた。「3歳になったらおいで」。先生の言葉通り、3歳になるのを待ってレッスンへ通い出した。憧れのお姉さんたちと楽しく練習に打ち込む日々。中学生からはジャズダンスも本格的に学んだ。 東京では、日本のバレエ界をけん引する「東京バレエ団」元プリンシパルで、「イワキ・バレエ・カンパニー」代表の井脇幸江さんに師事している。公演ともなれば、芸術監督を務める井脇さんを補佐しつつ、自らも舞台に立つ。 工藤さんはいわば井脇さんの一番弟子。かつて井脇さんが十八番だった役を一子相伝のような形で教わっている。「ジゼル」なら精霊の女王ミルタ。「ドン・キホーテ」なら自信たっぷりにだて男エスパーダにアピールするメルセデス。「世界の一流ダンサーと舞台を共にしてきた幸江さんから直接指導を受けることができ、本当に恵まれています」と工藤さん。舞台では、物語の役を演じ、自分と違う人生を表現する面白さに魅了されている。 コンテンポラリーダンスなども踊る場面があり、幼少期から多ジャンルのダンスを学んだことが強みになっているという。「地元での鍛錬のおかげです」と感謝を忘れない。 普段は新宿の繁華街にある病院に勤務、診療や手術に当たる。高校時代、「バレエのけがを治せるお医者さんがなかなかいないのよね」という先輩の母親の一言が背中を押し、整形外科医を目指した。「骨折や痛みで苦しんでいた患者さんが治療を経て動けるようになるのが喜び」とやりがいを見いだしている。 病院では患者全般をみているものの、「いつかバレエのけがに特化した診療ができれば」。そんな思いも胸に秘めている。自らの経験をバレエに還元しようとの試みも。今年4月、春日井の教室で大人の初心者向けに講習会を開いた。整形外科の視点から、つま先の伸ばし方や体の動かし方などを指導。知識があればけがの予防にもつながる。工藤さんならではのアプローチだ。 2022年には女の子を出産し、工藤さんの世界はさらに広がった。「時間が足りない」と苦笑しつつ、今は今月12日の公演を前に多忙な日々を送る。 公演では「白鳥の湖」第3幕より、オデット姫に化けて王子を翻弄(ほんろう)する黒鳥オディールを舞う。「初めて挑む作品ですが、以前から憧れていた踊り。男性ゲストと練り上げているところです」。残り数日。本番に向けてラストスパートをかける。 ◇ <くどう・かなこ 1983年青森市生まれ。3歳から同市の「春日井バレエ・ダンスギャラリー」でクラシックバレエを始める。2008年、「井脇幸江バレエスタジオ」(東京)に入会、12年の「イワキ・バレエ・カンパニー」創立後は団員として数々の公演に出演する。青森高校、弘前大学医学部卒。慶応義塾大学医学部で研修後、10年から同学部整形外科学教室在籍。15年度から4年間は同大大学院に進学>