被爆80年の平和式典、まちづくりの懸案…問われる長崎市の発信<自治体の課題と展望2025>
長崎市は今年、核兵器廃絶を希求する被爆地として世界にどんなメッセージを発するのか。意見が分かれるまちづくりの方向性について、どう市民に説明して理解を得るのか。「外」と「内」に向けた発信の中身がそれぞれ問われる。 昨年末に被爆者の全国組織「日本原水爆被害者団体協議会」(被団協)がノーベル平和賞を受賞。被爆80年の節目となる今年、被爆の実相継承や発信などの平和行政を担う市として弾みにする。鈴木史朗市長が市民の代表と共に起草し、8月9日の平和祈念式典で読み上げる「平和宣言」にも注目が集まる。 一方で懸案は残る。市は昨夏、平穏な式典運営を理由に、パレスチナ自治区ガザ攻撃を続けるイスラエルの駐日大使を招かず、これに反発した米欧の大使が欠席。鈴木市長は式典後の会見で「全ての国を呼ぶのが大前提。さまざまな意見を踏まえて招待範囲を改めて考える」と述べた。過去3年招いていないロシアとベラルーシを含め、今夏も難しい判断を迫られる。 まちづくり分野では、松山町のスポーツ施設再配置や、桜町での新文化施設建設などの懸案に道筋を示すことが必要だ。 市民総合プールと陸上競技場の移転・存続問題を巡り、市はプールを競技場に移し、陸上練習場を茂里町に新設する方針。大きく影響を受ける競技場利用者に対案を示した形だが、競技場自体の存続を求める意見もあり議論がかみ合っていない。すれ違ったまま事業を進めることは避けたい。 文化施設の完成は当初予定の2026年度から大幅に遅れる。市は厳しい財政下で民間資本活用の可能性を探るが、物価高騰の中で建設の必要性を疑問視する声すらある。現実的かつ具体的な方向性やスケジュールを早急に示すべきだ。 鈴木市長は今春で1期目を折り返す。人口減克服に向けて昨年策定し、実行中のアクションプランの進行状況も着実に検証してほしい。両輪の「経済再生」と「少子化対策」が効果を上げているのか、議会や市民への分かりやすい説明が求められる。