トルシエ解任を止めた故・岡野俊一郎氏が日本サッカー界へ残した功績と提言
そして、JFAの会長退任後は名誉会長、最高顧問、相談役を歴任してきた岡野さんは、日韓共催大会以降の日本代表の戦いを見守りながら、日本人監督誕生の必要性を唱えていた。そのためにも、年代別の日本代表監督がステップアップしていくのが唯一にして最善の方法だと力を込めてもいた。 自身の経験、そしてトルシエジャパンの成功例に照らし合わせた持論だった。しかし、たとえば歴代の五輪代表監督を見ても、昨夏のリオデジャネイロ大会を指揮した手倉森誠監督(現日本代表コーチ)を除いて、大会終了後もJFAと契約を延長した例はない。 U‐17やU‐20の代表監督にも、残念ながら継続性が見られていない。むしろ女子のほうがU‐17W杯を制し、昨秋のU‐20W杯でも日本を3位に導いた高倉麻子監督に、リオデジャネイロ五輪出場を逃したなでしこジャパンの再建が託されている。 17歳以下のリトルなでしこが世界一になってから、数ヶ月がたった2014年夏。未来を予測するかのように高倉監督のステップアップを後押ししていた岡野さんは、ハビエル・アギーレ監督の就任が決まったA代表と、JFAの最高議決機関である理事会へこんな苦言を残してもいる。 「日本の場合は何がベストなのかを、理事会で議論してくれればいいんだけど。例年通りと言われても、例年通りに選んだザッケローニ監督で上手くいかなかったんだから。議論のないところに発展なし。理事会は何をしているのか、と言われますよ」 これからは先に鬼籍に入っている長沼健さんや木之本興三さんらとともに、天国から代表チームを見守っていくのだろう。日本サッカー界を心から愛すればこそ何度も発せられた、忌憚なき言葉の数々を絶対に忘れてはならない。合掌。 (文責・藤江直人/スポーツライター)