立川志の彦さん、柳亭市童さん ごひいき願います!
「虚飾を排した落語家」──柳亭市童
才能の質量や向かう方向は千差万別、各々が思考と実践の果てに生み出す落語世界をどう観客に届けるかを日々問い続ける姿勢がやがては落語家自身の個性を形作っていく。表現に於いては暗中模索が当たり前、評価を得るためのテンプレートなど何処にも存在しない。しかし常にファンや関係者から必要とされるかけがえの無い存在になれるヒントは身の回りの事象を深く洞察すれば幾らでも見つけることができる。2025年3月下席より待望の真打ち昇進が決まった若手指折りの実力者、柳亭市童さんが見せる虚飾を排した高座は普段の準備が如何に重要であるかを如実に表している。 ラジオ好き、お笑い好きの高校時代に贔屓のお笑いタレントから幾度も飛び出した「落語」というワードに興味を持ったのがきっかけだった。元々和ものが好きだったこともありその後は一気に落語に傾倒していった。音源やネットの映像などで次から次へと落語の見聞を拡げていく中で、これぞ“落語そのものが持つ面白さの真髄”と感激した柳亭市馬師匠に弟子入りすることを目指し北海道から上京、浅草演芸ホール前で弟子入りを願い出た。中々弟子入りを許されずに苦労したという話は良く耳にするが何と即日入門を許可された。もちろん市童さんの中に弟子入りを即決させる素養があったのは言うまでもないことだ。そのひとつが一度でも聴いたことがあるお客さまなら皆が口を揃えるほど印象に残る耳に心地いい声質である。実際、落語界随一の歌い手(というかプロの歌手)である市馬師匠演じる『三十石』の船頭が美声で聴かせる舟歌に呼応する合いの手を市童さんが担うほどの天性の声音である。さらに師匠の教えである“嘘をつかない”“人が気付かないところに気配りをする”を守りながら連日稽古に励む。 現在は50席を超えるネタ数を有し、噺によっては熟成させるが如く覚えた後に一旦時間を置き物語を浚い直してから高座にかけるなどの創意工夫も忘れない。様々な情報が乱れ飛ぶ現代では奇抜なアピールで他者との差別化を図ることが必ずしも有効とは限らない。どんな風雨に曝されても倒れない確りと基礎を築いた建物のように外からは見えない芯を鍛え続けることが先決だ。真打ち昇進に向けても「今まで通り変えることはないが、少しずつハンドルを切りながら噺の持っている風情をお客さまと共有出来たらいい」と落語家としての生き方は揺るがない。個性は無理に加えるのではなくいつの間にか自然と備わっているもの。余計な混ぜ物がない市童さんの高座には落語の愉しさがいっぱいに詰まっている。 文・撮影=橘蓮二 <立川志の彦 公演予定> ■立川志の彦 カフェで楽しむ落語会 2024年6月28日(金) 東京・カフェレストランわれもこう光が丘公園店 開演 15:30 ■立川志の彦落語会 in 高崎 2024年7月6日(土) 群馬・高崎市総合福祉センター 午前の部 開演 11:00 午後の部 開演 14:30 ■第五回 立川志の彦落語会 in 旧小澤家住宅 2024年7月13日(土) 新潟・旧小澤家住宅 開場 13:00 / 開演 13:30 ■立川志の彦落語会 in TOKYO ~夏休みこども落語編~ 2024年7月21日(日) 東京・千本桜ホール 開場 10:30 / 開演 11:00 ■立川志の彦落語会 in TOKYO 2024年7月21日(日) 東京・千本桜ホール 開場 13:30 / 開演 14:00 <柳亭市童 公演予定> ■市童のらくご(毎月開催) 2024年7月19日(金) 東京・門前仲町 陽岳寺 開演 19:30 予約 1500円 当日 1800円 ■B3 2024年7月23日(火) 東京・落語協会2階 開演 18:30 <プロフィール> 橘蓮二(たちばな・れんじ) 1961年生まれ。95年より演芸写真家として活動を始める。人物、落語・演芸を中心に雑誌などで活動中。著書は『橘蓮二写真集 噺家 柳家小三治』『喬太郎のいる風景』など多数。作品を中心にした「Pen+」MOOK『蓮二のレンズ』(Pen+)も出版されている。落語公演のプロデュースも多く手がける。近著は『演芸場で会いましょう 本日の高座 その弐』(講談社)。