岸田首相も大誤算…「GDP=国の豊かさ」という前時代の妄想がもたらす深刻すぎる「弊害」
「終わりのない成長を目指し続ける資本主義体制はもう限界ではないか」 そんな思いを世界中の人々が抱えるなか、現実問題として地球温暖化が「資本主義など唯一永続可能な経済体制足りえない」ことを残酷なまでに示している。しかしその一方で、現状を追認するでも諦観を示すでもなく、夢物語でない現実に即したビジョンを示せる論者はいまだに現れない。 【漫画】「しすぎたらバカになるぞ」…性的虐待を受けた女性の「すべてが壊れた日」 本連載では「新自由主義の権化」に経済学を学び、20年以上経済のリアルを追いかけてきた記者が、海外の著名なパイオニアたちと共に資本主義の「教義」を問い直した『世界の賢人と語る「資本主義の先」』(井手壮平著)より抜粋して、「現実的な方策」をお届けする。 『世界の賢人と語る「資本主義の先」』連載第4回 『GDPはもう古い…日本がG7で提案した「新しい経済指標」のメディアが報道しない「革新的すぎる」中身』より続く
経済成長という目標は正しいのか
岸田文雄首相は2023年10月第212回臨時国会の所信表明演説で、「経済、経済、経済」と3度繰り返し、経済重視の姿勢を強調した。ここで念頭にあったのは、国内総生産(GDP)の増加だったと考えて間違いないだろう。憲政史上最長を記録した安倍政権ではより直接的に「名目GDP600兆円」という目標を掲げたこともあった。 もちろん、国民に必要な食料が行き渡らないような最貧国の場合は、経済成長は必要だ。だが、必要なものはすべて国内にあり、あとはそれをどう分配するかだけという日本においても経済成長こそが、政権が最優先で実現すべき課題だととらえられ、その「成長」は、GDPという戦時中に作られた問題だらけの指標でしか事実上、測ることができない。それは言うならば、古くて不正確な海図を頼りに、間違った目的地を目指して航海するようなものではないだろうか。 脱成長という考え方に対する反論としては、量の拡大をやめて質の向上を図ればいいではないかというものがある。 理屈の上では、量を増やさずに質を高めることによって、計算上のGDPを増やす、つまり経済成長を達成することも、ある程度は可能だろう。たとえば、食べる量を増やさなくても、すべての食材を有機栽培や自然農法で作られた高価なものに変えたほうが、GDP拡大には寄与する。 また、そのほうが環境にとってより望ましいのは間違いない。あるいは洋服でも、遠い外国の工場で劣悪な労働環境のもとで作られ、数回着たら飽きて捨ててしまうようなファストファッションではなく、地元の職人が環境に配慮して生産された素材で作ったものを皆が選ぶようになれば、量の拡大による大量生産・大量廃棄なしにGDPを上げることができるという考え方もある。