牛260頭すべてに名付け愛情注ぐ酪農家 「雪印」の元社員 首都圏から移住して受け継いだ牧場で規模拡大を続ける理由
酪農家の佐藤勝彦さん(49)=千葉県流山市出身=は、妻のあかねさん=東京都杉並区出身=と長野県山形村で営む佐藤牧場で、飼育する牛約260頭の全てに名前を付けている。一頭一頭に愛情を注ぎ、病気になれば費用がかかっても治療する。「家畜だからと割り切りたくない。うちにいる間は良い環境で過ごしてほしい」と思いやる。 【写真】山形村はここ
幼少期に酪農との関わりはなかったが、小学校の頃の夢は「動物王国をつくること」だった。東京農業大(東京)で畜産を学び、雪印乳業(現雪印メグミルク)に就職。赴任先の岡山県で酪農家への飼料販売などを担当した。現場を歩く中で「自分ならこうするのに」ともどかしく思う場面があり、牧場経営に引かれるように。26歳で退社し、就農を目指して長野県や北海道の牧場で研修を重ねた。
信州を選んだのは、出身地から近く、県の就農支援に魅力を感じたから。就農コーディネーターの紹介で現在の牧場に出合い、2007年に県の「新規就農里親制度」を利用して前オーナーから経営を継ぐ準備を開始。翌年に就農し、乳牛58頭と牛舎に加え、4ヘクタールの畑も譲り受けた。
力を入れるのは、牧草など「粗飼料」の自給だ。「酪農の『農』は飼料を作って初めて成り立つ」と考え、借地を含め農地を約10倍に拡大。近隣農家に堆肥を渡す代わりにもらう稲わらも生かし、粗飼料の7割を自給する。飼料代の高騰に対しても「何とか乗り切れる」という。
牛や従業員数を増やし、19年に国補助金を受けて牛舎を新設するなど年々規模を拡大。昨年は牛乳約1800トンを出荷した。現在は牧場を未来へつなぐため、従業員へ少しずつ仕事を引き継いでいる。理想は、10年後には自らがサポート役に回れる状態だ。「山形村に佐藤牧場があって良かったと言ってもらえる存在として続いてほしい」と先を見据えている。