【パリ発コラム】アカデミー賞フランス代表決定 合作映画が増えることで浮上する映画の国籍の問題
来年のアカデミー賞に向けて、各国で代表作品が続々と選出されている。国際長編映画賞フランス代表に選ばれたのは、今年のカンヌ国際映画祭で女優賞(主演4人のアンサンブルに送られた)と審査員賞をダブル受賞した、ジャック・オーディアール監督の「Emilia Pérez」だ。最終選に残ったのは本作に加え、フランスで800万人を超える動員を集めた「Le Comte de Monte-Cristo(モンテ・クリスト伯)」、アラン・ギロディ監督の「Miséricorde」、カンヌでグランプリに輝いた、インドが舞台の「All We Imagine as Light」の3作。 オーディアールの作品はミュージカル・コメディで、カンヌでの人気ぶりを考えるならこのチョイスは妥当と思えるが、メキシコが舞台ゆえにじつはフランス語が出てこない。メキシコのドラッグカルテルのボスが、性転換手術を受けて女性に生まれ変わる、というストーリーで、主人公を自身もトランスセクシュアルのカルラ・ソフィア・ガスコンが演じる他、ゾーイ・サルダナ、セレーナ・ゴメス、アドリアナ・パズら、国際的なスターが顔を揃える。まったく「フランスらしさ」がないことを考えると、選出されたことは驚きと言えるかもしれない。 だが、この背景には1年前の「失敗」が影響している。昨年の今頃、選考委員会はトラン・アン・ユンの「ポトフ 美食家と料理人」とジュスティーヌ・トリエの「落下の解剖学」のあいだで意見が分かれ、最終的にフランス文化を打ち出した前者を選んだ。だがその結果、本作は最終リストに残らず、かたやトリエの方は、脚本賞を受賞するに至った。「ポトフ~」が駄作とはまったく思わないが、ある意味、観る人を選ぶタイプの映画には違いない。それに引き換え、先の読めないスリラーである「落下の解剖学」は万人向けであり、評価もされやすい。 こうした経験があるゆえに、今年はフランスらしさにこだわるよりは、スター・バリュー、大胆さ、オリジナリティに賭けたのではないだろうか。たしかにオーディアールのミュージカル・コメディは、意表を突く面白さに溢れている。ミュージカル・シーンの迫力も見もので、ゴメスが歌が上手いのは当然としても、サルダナのダンスと歌の上手さには瞠目させられる。さらに「奇跡の発見」とも言うべきガスコンの存在が、映画を牽引している。 合作映画がますます増えているなか、今後映画の国籍の問題はなおさら複雑になっていくだろう。たとえば今回、ドイツでも、イランが舞台でドイツ語がまったく出てこない、さらに監督もドイツ人ではない、モハマド・ラスロフの話題作「The Seed if the Sacred Fig」が代表に選ばれた。一方、ベルリン国際映画祭で金熊賞に輝いたマティ・ディオップの「Dahomey」はフランスとセネガルの二重国籍ゆえに、結果的にセネガル映画の代表におさまった。 これからは各国とも、「その国らしさ」より、いかに賞に有利かが選択の基準になっていくのかもしれない。(佐藤久理子)