「本の中にすべてあった」 人気作家ハン・ガンさん、自身の歩み語る
ブッカー国際賞を受賞した「菜食主義者」などの作品が国境を越えて読まれている韓国の作家ハン・ガンさんが、朝日新聞のインタビューに応じた。日本語訳が刊行されたばかりの最新作「別れを告げない」に込めた思いや、自身の歩みについて語った。 【写真】暴力に満ちた世界で、希望を想像する 問い続ける作家ハン・ガンさん ハンさんは1970年、韓国南西部の光州市に生まれた。肉食を拒否する女性らを描いた「菜食主義者」で2016年にアジア初のブッカー国際賞を受賞し、世界的に注目された。この「菜食主義者」をはじめ、「ギリシャ語の時間」「回復する人間」「すべての、白いものたちの」など多くの作品が日本語に翻訳されており、日本での韓国文学人気を牽引(けんいん)してきた作家の一人だ。 父親のハン・スンウォンさんも著名な作家として知られる。子どもの頃はたくさんの本に囲まれて育ったという。 「感謝しているのは、家にとても多くの本があったことです。文学的な環境を私に与えてくれたことに感謝しています」 本が自身にとってどんな存在だったのかについては、「思春期になって、なんで生きるんだろう、私は誰なのか、人間とは何か、と悩んだ時に、同じ悩みが、それまで私が読んだ本の中にすべてあったということに気づきました」と振り返った。 多数の住民が犠牲になった済州島4・3事件を取り上げた「別れを告げない」(2021年)は今年3月、白水社から日本語版が刊行された。2014年の「少年が来る」では、民主化を求める市民や学生が武力制圧された光州事件を題材にした。 韓国現代史の二つの事件に目を向けたハンさんは「歴史を見つめて問うことは、人間の本性について問うことでもある。記憶を抱きしめ、生命に向けて進む人間の姿と能力に、私はいつもひかれます」と話す。(ソウル=金順姫、稲田清英)
朝日新聞社