「オオカミの家」監督の新作「ハイパーボリア人」日本初上映、ホアキン・コシーニャが来日し語る【ひろしまアニメーションシーズン2024】
広島市で開催される2年に1度のアニメーション芸術の祭典「ひろしまアニメーションシーズン2024(HAS)」が8月14日、開幕した。オープニング作品で、「オオカミの家」のレオン&コシーニャによる新作長編「ハイパーボリア人」が日本プレミア上映され、来日したホアキン・コシーニャが作品を語った。 聞き手を務めた映画祭アーティスティック・ディレクターの山村浩二氏が、上映前に「情報が少ない作品なので、(鑑賞前に)より楽しめるように」と、「ライブアクションとコマ撮り、人形劇などさまざまな映像の技法がミックスされた作品」だと説明。実在のチリの作家で、秘教哲学者のミゲル・セラノの、ヒトラーは南極のどこかで生きている……というネオナチ的ともいえる常軌を逸した思想と、チリの歴史、オカルト、右翼の陰謀論、ユング心理学、無声映画などの要素を、ダークSFやB級ホラー映画のようなタッチで描き出す。 上映後に登壇したコシーニャは、本作の製作の経緯について、レオン&コシーニャとして、初の長編アニメーション「オオカミの家」を完成させた後、その過程に苦労したことから、次は実写映画を作ろうと考えたことがきっかけと明かす。ミゲル・セラノをキーパーソンとした内容について「セラノについては、チリの文学の世界では比較的よく知られており、ナチシンパの外交官がいたということが大事だという風に捉えられています。こういう人物がいること自体非常に奇妙なこと。ですから、チリの政治や歴史に向き合うときには、それに匹敵する奇妙さを持って挑まなければと思った」と解説した。 そして、「ナチズムに関する作品ですが、個人的なレベルでは、何かを決断をすること、何かものを作ること、その困難にまつわる作品」と構想から6年もの間、脚本を書き上げられず、作る決断ができなかったことも反映されていると補足した。 そのほか、主人公を実写の女性にした理由、本人役として出演する主演女優の起用について、本編の一部は美術の展覧会用として撮影し、ギャラリー内に人が出入りするような中で撮影が行われたこと、コロナ禍に制作したオンライン演劇の構造を生かしたというエピソードが語られた。 本編には、手作業で作られた多くのパペットやマスクが登場し、「一見すごくラフに撮影しているように即興的」と山村氏。その即興性と準備はどのようなバランスだったのかを問いかける。 「多くの準備があり、悪夢のようだった」とコシーニャ。役者との実写パートの撮影のほか、一部の人形の制作などに多くの時間がかかったそう。その一方で、ワークショップを開催し、その参加者が本編に登場する人形や立体造形物の多くを作ってくれたという。 「スケジュールを組んで順番通りに制作をする、というより、システムのように簡単な仕組みだけを作って、そこに入ってきてくれた人とコラボする。そういうことができないかと考えた作品です。もちろん、仕組み作りの準備はありますが、いろりろやりながら即興的に試行錯誤し、いろんな人と作ることを試みた」と振り返る。 また、山村氏は映画のトーンとして、ジョルジュ・メリエスをはじめとしたサイレント映画や、B級怪奇映画へのオマージュも感じたと感想を述べる。 コシーニャは「僕らは映画が誕生した時のテクノロジーに特に興味があります。新しいテクノロジーが生まれた瞬間には、何のルールもないからです。3Dアニメも、原理としては70年くらい前から存在すると思いますが、その初期やSFというジャンルもすごく面白い。新しいものが出てきて、プロがその技術を使ってなにかを作る――そのやり方が確立される前段階が興味深いと思います。新しい技術や方法が出てくると、実験が必要だからです。ウォルト・ディズニーでさえ、最初は実験しなければいけなかった。ですから、特にこの作品は、新しい技術の創世期の映画、もちろんその実験をしていたメリエスなどに影響を受けていると思います」と答えた。 最後に、本作のもう1人の監督である、クリストバル・レオンからのメッセージ「広島の皆さん、こんにちは。何年か前に日本行ったことがあり、本当に日本が大好きです。今回は行けずに残念ですが、楽しんでください」が読み上げられ、大きな拍手とともに「ハイパーボリア人」日本プレミア上映の幕が閉じられた。なお、本作は来年の劇場公開が決定している。 「ひろしまアニメーションシーズン2024」は、8月18日まで開催。全プログラム、チケット詳細は公式HP(https://animation.hiroshimafest.org/schedule/)で告知している。1日券は3000円。1回券は1200円。そのほか全プログラム券や、大学生、高・中学生料金あり。