貧困層が投票に行かない理由 大統領選に垣間見える米国の深刻な経済格差
米大統領選挙で民主・共和の両党から候補者を選ぶための予備選挙も佳境に入り、ニューヨーク州の予備選挙でクリントン氏とトランプ氏がそれぞれ勝利を収め、党からの候補者指名に向けてさらにリードする格好となりました。ニューヨーク州でクリントン氏に敗れたサンダース氏に対し、「候補者指名を受けるのは現実的にありえない話」と事実上の敗戦を宣告するメディアも出てきましたが、サンダース氏は最後まで戦うとあらためて表明。同時に、アメリカの選挙制度の複雑さや、貧困層が投票に行くのが難しいという問題点も指摘しています。今回は前編と後編に分けて、選挙全体の争点となっている格差問題や、経済格差が投票という行為そのものにまで影響を与えている現状について考えます。 【写真】トランプ氏にサンダース氏 「異端」が躍進する米大統領選
米メディアは事実上の「終戦」
19日にニューヨーク州で行われた民主党と共和党の予備選挙。民主党候補者にとって、ニューヨーク州は247人の代議員と44人のスーパー代議員を抱える「大票田」ですが、予備選の結果はクリントン氏が約58%、サンダース氏が約42%の得票率で、クリントン氏が勝利しました。この時点でクリントン氏の獲得代議員数は1428人。対するサンダース氏の獲得代議員数は1153人となっていますが、ギリギリまでどちらを支持するか表明する必要のないスーパー代議員が715人おり、そのうち少なくとも500人はクリントン氏を支持するとみられているため、両者の代議員獲得数には800人近い差が存在すると報じられています。 26日にはペンシルバニア州(代議員数189)やメリーランド州(代議員数95)を含む5州で予備選挙が行われ、6月7日に6つの州で行われる予備選挙には、最も多くの代議員を抱えるカリフォルニア州(475人)も含まれており、サンダース氏はニューヨーク州での敗戦後に、選挙戦を最後まで戦い抜く姿勢をあらためて強調しました。しかし、これまでの獲得代議員数や今後の展開を見据えた際に、サンダース氏がクリントン氏に逆転する可能性がさらに低下したのも事実。米主要メディアは、ニューヨークの結果はサンダース氏にとって事実上の終戦になったと、厳しい見方を示しています。 ニューヨーク州の選挙ルールは非常に厳しいもので、このルールがサンダース氏の躍進を妨げたという指摘もあります。同州では4月19日に行われる予備選挙に向けて、まず有権者が民主党員か共和党員のどちらかに登録する必要があるのですが、そのデッドラインは昨年10月9日で、加えて3月25日までに有権者登録を済ませなければなりませんでした。 予備選挙におけるルールは州によって大きく異なり、投票日まで有権者登録を受け付けている州や、無党派層が民主党候補に投票できる州も存在します。今年に入ってからサンダース候補の存在感が大きく増し、いわゆる「サンダース旋風」が巻き起こりましたが、昨年10月の時点でサンダース候補の支持母体となっているニューヨーク州の無党派層が支持政党の登録を行っていなかったため、投票ができなかったケースも少なくないようです。 複雑な手続きに加えて、選挙管理委員会のずさんさにも批判が集まっています。ニューヨーク市周辺の投票では、ブルックリン地区を中心に約12万5000人の民主党員の名前が有権者名簿から誤って削除され、これらの有権者は投票することができませんでした。ニューヨーク州司法長官やニューヨーク市の監査役はこの一件について調査する姿勢を表明し、ニューヨーク市の選挙管理委員会はブルックリン地区の責任者を停職処分にしています。今後、有権者名簿からの名前の削除が意図的に行われたのかについても調査が入る予定ですが、サンダース陣営は悔しさを隠しきれない様子です。