「ドル建て日経平均」という都市伝説…市場に溢れるフェイクニュースとの付き合い方【ストラテジストが解説】
※本稿は、チーフグローバルストラテジスト・白木久史氏(三井住友DSアセットマネジメント株式会社)による寄稿です。
------------------------------------- 【目次】 1. 盛られる「ドル建て日経平均」の影響力 2. 「ドル建て日経平均」が気にならない残念な理由 3. 実は気にしてはいけない?「ドル建て日経平均」 ------------------------------------- 円安と株安が同時に進む局面でよく目にするのが、「米ドル建て日経平均株価(以下、ドル建て日経平均)の下落で海外投資家が日本株を見切り売り」という解説です。日本の株式市場の売買はその約6割を海外投資家が占めるため、「なるほど」と納得してしまいそうになりますが、こうした解説は的を射たものなのでしょうか。主要経済紙でも度々報じられる「ドル建て日経平均」ですが、その実像を検証してみたいと思います。
1. 盛られる「ドル建て日経平均」の影響力
■日本の株式市場における海外投資家の動向は、東京証券取引所(東証)が発表している「海外投資家地域別株券売買状況」で確認することができます。9月の同資料を見ると、米国投資家の売買金額は月間約7.3兆円、海外投資家の売買に占めるシェアは約6.8%に過ぎません(図表1)。ちなみに、日本における最大の海外投資家は欧州勢で、9月の売買代金は約82.1兆円、同シェアは約76.7%に達します。こうしてみると、「ドル建て日経平均」よりも、「ユーロ建て日経平均」の方がよほど重要かもしれません。 ■ちなみに、9月の東証3市場(プライム、スタンダード、グロース)における海外投資家の売買シェアは約59.5%です。このため、自国通貨である米ドルを投じて日本株を買っている米国の投資家の日本株売買シェアは、大きく見積もっても市場全体の約4%(6.8%×59.5%)に過ぎない計算になります。 ■大手の機関投資家が市場で株式を売買する場合、自身の取引で株価を大きく動かしてしまうことを避けるため、概ね1日の売買代金の2割をめどに取引金額をコントロールするのが一般的です。こうした市場参加者の肌感覚からすると、売買シェアで4%を占めるに過ぎない投資家が市場に大きな影響を与えるとする解説は、かなり「盛った話」に感じられます。