阿久津仁愛の現在地「芝居はうまく見せようとするとダメ」
映像デビューから5年。まだまだ芝居は難しい
達成感に浸る一方で、反省と課題も忘れない。 「鱗蔵と言い争いになった平馬が、鱗蔵の胸ぐらを掴むシーンがあるんですね。まず人の胸ぐらを掴んだことが人生でなかったので、それだけでもちょっとぎこちないところがあったんですけど、そこで座っている鱗蔵を立ち上がらせないといけなかったんですよ。それだけの勢いをつけるのが結構難しくて。台詞の勢いに対して動きが弱いって、監督から何度も言われた記憶があります」 約1ヶ月の稽古期間を通して役をじっくりとつくり込める舞台に対し、映像は瞬発力が物を言う世界。どちらかといえばスロースターターである阿久津は戸惑うことも多いという。 「役を掴むのに時間がかかる分、クランクイン直後のシーンがどうしても手探りになってしまうのが、今の僕の課題。下手でもいいから、最初はもっと表現を大きめにして入ったほうがいいのかなとか、自分なりのやり方を探しているところで。映像作品に出たときは、いつも出来上がりをチェックして、その都度学んでいる感じです。やっぱり見ないとわからないことってあるんですよね。でも、こうやったらいいみたいな正解はなくて。反省するシーンもあれば、撮影しているときは自覚していなかったけど、思ったより良かったなと思うシーンもある。まだまだ映像のお芝居は難しいなって試行錯誤中です」 目指す頂は、遠い。だが、途方に暮れていても前には進めない。反省を繰り返しながら、そこで得た課題を次なるハーケンとして打ち込み、岸壁を登っていく。 「出来上がった作品を見ると、自分の中でのシーンの理解度がよくわかるんです。理想はどのシーンもちゃんと深くまで理解することなんですけど、どうしてもまだまだここは理解が浅かったなと思う場面もあって。やっぱりいちばんダメなのは、うまく見せようとすること。そういうのって、映像だと全部見えちゃうんですよね」 そう自らに戒めながら浮かぶ理想のお芝居は、やっぱり古田新太から学んだことだった。 「結局、相手のお芝居を素直に受け取って、それに応えるのがいちばんなんですよね。もちろん中には自家発電して言わないといけない台詞もあるんですけど、お芝居の基本はキャッチボール。相手からもらうものが大きければ大きいほど、自分の中からいいものを出せる。そこをこれからも忘れずに、ちゃんと磨いていきたいです」 23歳。まだ道のりは長い。いつか古田新太の年齢になったとき、どんな芝居をしているだろうか。小手先に頼らず、ただ無心に、役として生きる。芝居の原点にして頂点を目指し、阿久津仁愛は次なるホールドに足をかける。 撮影/友野雄、取材・文/横川良明 映画『邪魚隊/ジャッコタイ』は2024年5月31日映画公開