紀州徳川家の菩提寺・長保寺、拝観停止続く…土砂崩れ被害1年
昨年6月の大雨で、紀州徳川家の菩提寺(ぼだいじ)・長保寺(和歌山県海南市下津町)は大きな被害に見舞われた。1年が過ぎたが、今も拝観停止の状態が続き、境内に流れ込んだ土砂の撤去などは進んでいない。約5ヘクタールの敷地の多くが国史跡に指定されており、慎重な作業が求められているからだ。同寺は「時間はかかるが、文化財としての価値を守りながら復旧を進めていく」としている。(佐武建哉)
「花の寺」としても名高い長保寺。アジサイが咲き誇る例年の梅雨時は多くの参拝者でにぎわうが、今年は皆無だ。
昨年6月2~3日の大雨の影響で、国宝に指定されている本堂(1311年建立)の裏にある斜面が崩落。建物の下に大量の土砂が流入し、縁が持ち上がったり、屋根に大木が倒れかかったりした。境内は大量の泥で覆われ、敷いていた白砂が見えなくなった。崩れた場所は紀州徳川家4代・頼職(よりもと)の墓のすぐ近くだった。
斜面が再崩落する危険などから、拝観は無期限停止に。長保寺法嗣(ほっし)の瑞樹弘芳(たまきこうほう)さん(39)は「史跡が崩れ、国宝が危険にさらされている現場は、あまり前例がないのでは」と危機感を感じた。数日後には文化庁の担当者らが訪れ、復旧策の協議が始まったが、方針が決まるのに時間がかかった。
倒れる危険性が高い約50本の木を斜面から取り除く応急工事に入ったのは11月29日。今年1月上旬にようやく終わり、現在は斜面をどう補修するのか、再度調査や協議を重ねている。
崩落した斜面の工事では、杭(くい)を岩盤まで打ち込んだり、コンクリートで固めたりする工法が一般的だ。だが瑞樹さんは「一番大切なのは再度の崩落を防ぐこと。しかし、頼職公の墓に向けて杭を打つことに抵抗がある。コンクリートの多用も景観を損なう恐れがある」と、復旧作業と景観維持のバランスを取る難しさを打ち明ける。
今後の予定としては、今年中に斜面復旧への工事に着手し、終わり次第、本堂の縁の下などに入り込んだ土砂を除去し、建物への影響を詳しく調査する。全ての工程が終わるのは約3年後だと見込んでいる。
瑞樹さんは「遠方から訪れた参拝者が『見られないんだ、残念』と言って帰られる姿を見るのは心苦しい。一方で、文化財としての価値は守らないといけない。粛々と復旧を進めていきたい」と話した。