え…っ信じちゃうじゃん 学校でなく『稲中』で習った「虹ができる理由」覚えてる?
なぜか脳裏によぎる7人のハゲた親父……全て『稲中』のせいです
「虹」がどのような仕組みで発生するのか、ご存じでしょうか? たいていの方は「空気中の水滴に太陽光が屈折、反射して生じる現象」であると、知っていることでしょう。 【画像】え…っ?こんなもんグッズ化されてんの? こちらが「前野と井沢」の着ぐるみ姿です(4枚) ところがある年代(現在40代くらい)は、そうした理科で習った知識より先に「雨上がり、禿げたオヤジが偶然七人並んだ際に生じるもの」という、あまりにも荒唐無稽な説が頭によぎるのです。全ては『行け!稲中卓球部』(作:古谷実)のせいです。 『稲中』は低俗、下劣でありながら「青春マンガの金字塔」として、今なお読み継がれる名作です。ページをめくるたびに飛び出す信じられぬテンションの下ネタ、暴言暴力、はたまた「田原俊彦」や「キクちゃん」といった圧倒的ビジュアルのキャラクターなど、『稲中』の魅力は数あるものの、特に忘れてはならないのが冒頭で挙げたような「清々しいほどの嘘」でしょう。 「虹」の話が飛び出すのは、第8巻その88「分析」です。空にかかった虹の仕組みに関して主人公「前野」が「親父に聞いた話」としてわざわざ1ページを費やし、うっかり虹を発生させてしまった親父たち(国の決まりで動くと死刑)の会話をリアリティたっぷりに描くのでした。最後のコマにおける、「横浜のマコトおじさんは「赤」を出したことがある」という前野の父親のセリフも非常に印象的でした。 そのほか、『稲中』が世に放った「嘘」はどれも秀逸なものばかりです。第6巻その63「誰のせいでもありません」においては、前野の親友「井沢」が「都庁って巨大ロボに変形するんだってよ」とかましてくれました。 この回はそもそもシチュエーションの妙があり、井沢が前野にとある残酷な事実を伝えねばならない場面で、前述のセリフは井沢がそのプレッシャーに耐えきれずとっさについた嘘なのです。ある意味では「優しい嘘」の一種とも言えそうですが、それにしては突拍子がなさすぎました。清々しい限りで、今でも少し信じています。 第11巻その122「トゥルース」では、前野が井沢にこれまた唐突に「力士って本当は絶滅寸前の動物なんじゃないか?」と疑問を呈し、そこへ現れた怪しい男がそれを肯定しました。彼は「昔は(力士を)1日2匹は捕まえていた」など語り始め、「ほら、あそこをごらん 力士の巣だ」と畳み掛けてきます。わざわざ文字に起こすと、認知になんらかの歪みが生じてきそうです。 『稲中』というマンガが低俗であり、下劣であることは疑う必要のない真実でありますが、その人気を支えていたのは絶え間なく繰り広げられる寸劇、異常な切れ味を誇るセリフの応酬、本記事で取り上げた「嘘」の数々……と、紛れもなく「センス」という言葉に収斂(しゅうれん)されるものでした。 令和以降、『稲中』がどれほど読み継がれるかどうかは神のみぞ知るところですが、ピックアップされがちな「過激な下ネタ、暴力」のみで構成されたマンガでなかったことは、覚えておきたいところです。 あの頃ハマった青少年たちも今では立派な中年で、そろそろ「赤」を出してもおかしくはありません。
片野