『366日』『くるり』『9ボーダー』『アンメット』全く異なる記憶喪失ドラマの過去と現在…重要なのは
記憶の有無に左右されない絆
『9ボーダー』ではより一層、過去よりも現在に比重が置かれた。川口春奈演じる主人公・大庭七苗の前に、身元不明で記憶喪失の通称・コウタロウ(松下洸平)が現れる。七苗の地元や家族とは、まったく馴染みのないコウタロウだったが、そこが温かいホームになっていく。また、記憶が無い中でも、コウタロウは七苗とどんどん恋に落ちていった。“過去の自分”と異なる選択をしたらどうなるのかという、まことのような不安は感じられなかった。 物語の終盤になって、コウタロウは本名が芝田悠斗という人物だと判明し、その婚約者だという女性が登場する。コウタロウは、神戸にある大企業の副社長だったらしく、婚約者と共に、一度は元の生活に戻ろうとする。しかし、コウタロウは記憶が取り戻せず、七苗への想いも断ち切れずにいた。婚約者は、何もかも変わってしまったコウタロウに別れを告げ、破談となる。コウタロウは七苗とその仲間達の元に戻り、こちらもハッピーエンドとなった。 ただ、七苗から見たコウタロウとの物語は幸せに満ちているが、“くるり”とひっくり返して、元婚約者の視点からみる芝田悠斗との物語は、あまりに切ない。悲恋を歌ったHYの名曲から着想を得たドラマ『366日』より、ずっと悲しい物語だ。それでも、元婚約者は、芝田悠斗に過去を押し付けず、身を引いた。『366日』で明日香が遥斗に対し抱いていた、“一生忘れられない恋”というほどの強い想いは感じられなかった。コウタロウが芝田悠斗の記憶を取り戻しても、同じ結末になったのだろう。 『アンメット』では、また別のベクトルで過去より現在に重きが置かれていた。杉咲花演じる主人公・川内ミヤビは、脳外科医でありながら、事故によって過去2年の記憶を失い、新しい記憶も1日でリセットされる記憶障害を患っていた。日々の出来事を綴ったノートを毎日確認し生きるミヤビには、過去に執着することが出来ない。同じ病院の同僚医師で、婚約者だという三瓶友治(若葉竜也)は、ミヤビの症状が改善されるように、どんな時も寄り添い尽力する。またミヤビが命の危機に瀕した際にも、不可能と言われた手術に決死の思いで立ち向かう。 ミヤビは三瓶と出会い、婚約するまでの過程も記憶に無いが、ミヤビの心が三瓶を信じていた。ミヤビのノートに「わたしの今日は明日に繋がる」と記されていた通り、『アンメット』では過去より現在、そして未来へと重心が置かれていたのだ。三瓶がミヤビにそうしたように、ミヤビもまた患者に対し、そう願って行動してきたからだろう。三瓶の手術が成功し、ミヤビの今日が明日に繋がった。記憶の有無に左右されない、2人の強い絆が結実した瞬間だった。
こじらぶ