【「本屋大賞2024」候補作紹介】『成瀬は天下を取りにいく』――滋賀県大津市が生んだ最強ヒロイン・成瀬あかり、堂々登場!
BOOKSTANDがお届けする「本屋大賞2024」ノミネート全10作の紹介。今回取り上げるのは、宮島未奈(みやじま・みな)著『成瀬は天下を取りにいく』です。 ****** 今回紹介する『成瀬は天下を取りにいく』は、2023年3月の発売からわずか半年で10万部を突破したという大ヒット作。何がそんなに多くの人を惹きつけたかといえば、成瀬あかりという主人公そのものに尽きるでしょう。 なにせ、同書の最初に出てくるのが「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」というあかりのセリフ。この一言からして、彼女がいわゆる"普通の子"じゃないことがわかるのではないでしょうか。西武とはライオンズのこと、それとも鉄道のこと......? しょっぱなから誰もが呆気にとられるとともに、これから一体何が始まるのだろうと興味をそそられます。 その点、「成瀬と同じマンションに生まれついた凡人」(同書より)を自称する幼なじみ・島崎みゆきにとって、あかりの突飛な行動は慣れたもの。あかりは、一カ月後に閉店が決まっている滋賀県大津市唯一のデパート西武大津店に毎日通うと告げ、みゆきに「八月になったらぐるりんワイドで西武大津店から生中継をする。それに毎日映るから、島崎にはテレビをチェックしてほしい」(同書より)と頼みます。これに対し、「成瀬を見るのはわたしの務めだ」(同書より)として、みゆきはすぐにテレビの番組表で視聴予約します。互いの世界を認め、尊重しているふたりの関係性は、同書において注目したい点のひとつです。 基本、頭脳明晰で一人でなんでもできてしまうあかりは、周りを寄せ付けないちょっと浮いた存在。一方のみゆきは勉強は人並みではあるものの、コミュニケーション能力が高くて友人も多いタイプ。同書の最初に収録された「ありがとう西武大津店」では、みゆきの視点からあかりを描くことで、あかりという孤高の存在や唯一無二なキャラクターをぐっと引き立たせています。同様に、「線がつながる」では高校であかりと同じクラスになった「かえで」の視点から、「レッツゴーミシガン」ではあかりに恋心を抱く「結希人」の視点から物語が描かれ、あかりを交えた青春物語が繰り広げられます。 「夢は200歳まで生きること」と真面目に語り、M-1グランプリに「ゼゼカラ」というコンビ名で挑戦し、高校に入ったら突然坊主頭に刈り上げ、連絡先を教えてと頼めばLINEではなく自宅の住所と電話番号を手書きしたメモをくれる......こんな主人公に魅了されないほうがどうかしている! 気づけば読者はあかりファンのひとりになっていることでしょう。 ここで「この一冊きりであかりに会えないのか......」とお嘆きの皆さんに朗報! 2024年1月に第2弾となる『成瀬は信じた道をいく』が発売され、さらにパワーアップした彼女にお目にかかれるようです。まずは同書で、いまだかつてないほど個性あふれる少女・成瀬あかりの洗礼を受けてみてはいかがでしょうか? [文・鷺ノ宮やよい]
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