ウクライナの高校生、3割以上がうつ病やPTSDか 戦禍にさらされ心の傷深く こども病院医師らが調査
長引く戦争、子どもの心の深い傷に
ロシアによる侵攻が続くウクライナの高校生年代の3割以上がうつ病やPTSD(心的外傷後ストレス障害)を患っている可能性が高い―。長引く戦争で子どもの心が深く傷ついている実情が、県立こども病院(安曇野市)の後藤隆之介医師(29)らの研究チームが行った調査で明らかになった。若い世代を対象にした大規模調査は今回が初という。今後も継続して生徒らの心の健康について調べて、必要な治療やカウンセリングの体制整備につなげる。25日(日本時間26日)に米国の医学雑誌で発表した。 【地図】「戦争にさらされた」と答えたウクライナの高校生らの割合
調査は2023年5~6月、ロシアが支配するクリミア半島を除くウクライナ全土の学校にインターネットを通じて協力を呼びかけて実施。15歳以上の若者計1万2千人余が参加し、精神疾患に用いられるアンケート形式のスクリーニング検査を行った。スマートフォンなどから回答が寄せられ、このうち有効な8096人分を分析したところ、PTSDについてはスクリーニングで陽性が35%、うつ病は32%、不安障害は18%に上った。
戦争にさらされた子ども、精神疾患高い傾向
アンケートの設計・集計や論文執筆を担った後藤医師によると、全体の約半数が、戦争の場面を目撃したり、戦火の中にいたりする―と回答した。そうした子どもたちがスクリーニングで陽性となる割合は、戦争にさらされていないと答えた子どもたちに比べて不安障害が1・6倍、うつ病とPTSDが1・4倍と高い傾向を示した。
早期の支援、治療体制を
子どもは育つ環境により心身に影響が表れやすい。今回の結果は、他国の同年代の有病率に比べて極めて高いといい、「戦争という過酷な環境に置かれて、ウクライナの未来を背負う青年たちの将来への影響は強いと想像できる」と後藤医師。深刻な状況だが現地では医療物資や人員が足りておらず、後藤医師は、オンラインのカウンセリングなどでより早期に支援に取り組むことが必要、としている。
論文は医学雑誌「JAMAPediatrics」に発表。著者は後藤医師ら国内外の6人。精神科医などウクライナ人3人が現地で学校や政府への協力要請、アンケート発送に動いた。「毎日のように爆撃音が聞こえる中で取り組んだメンバーもいる」と後藤医師。研究費は、NPO法人チェルノブイリ・福島医療基金(CMF、松本市)などの助成金を充てた。
戦争が子どもに及ぼす影響について以前から研究テーマにしてきた後藤医師は、取材に対して「最も戦争の影響を受けやすい、何の罪もない人たちに支援が行き届くよう願っている」と話した。