毛を織物にした犬の伝説は本当だった、絶滅した北米のもふもふ犬の歴史が明らかに
長くて太い毛をもっていた北米のコースト・セイリッシュ・ウーリードッグ、最新研究
小型で白く、もふもふのコースト・セイリッシュ・ウーリードッグは、かつて北米大陸北西部のセイリッシュ海周辺に住む先住民社会で広く飼育され、その毛は伝統的な毛布を織るために使われた。先住民は、ヨーロッパ人が自分たちの飼い犬を持ち込むよりもずっと前から、毛布にする毛を刈り取るために何世代もかけてウーリードッグの品種改良を重ねたと言い伝えてきた。その伝説が事実であったことが、2023年12月14日付けの学術誌「Science」に発表された研究によって裏付けられた。 【関連写真】ウーリードッグの毛による先住民の毛布 「その毛布をまとったものは誰でも、祈りの力に包まれます」と、スコーミッシュ・タワナ族の伝統知識の守り人で、論文の共著者でもあるマイケル・パベル氏は言う。 しかし19世紀終わりから20世紀初頭にかけて、旧大陸から持ち込まれた伝染病や強制的同化、そのほかの現地文化を抑圧する植民地政策によってウーリードッグの世話をする人間が激減し、わずか数十年のうちにイヌは絶滅してしまったと、長老たちは言う。 「ウーリードッグは、伝統的な毛布を作るという目的のために飼育されましたが、植民地時代の犠牲になりました」と話すのは、ストロー族の族長でカナダ、ブリティッシュ・コロンビア大学総長、ブリティッシュ・コロンビア州元副総督のスティーブン・ポイント氏だ。
忘れられた貴重な毛皮
ポイント氏は、ストロー族の土地で飼育されていたと考えられている「マトン」という名のウーリードッグの毛を、スミソニアン協会が研究に用いることを承諾した。 マトンは、1850年代末に米北西部とカナダの国境線を決定する測量事業が行われていたときに、英国人博物学者で民族誌学者のジョージ・ギブスに飼育されていた。1859年にマトンが病死すると、ギブスは毛皮をスミソニアン協会に寄贈した。 その後、協会には誰も毛皮を分析しようとかその歴史について知ろうとする者がいなかったが、2021年、「ハカイ」という雑誌に掲載されたマトンの毛皮の写真に目をとめたのが、進化分子生物学者のオードリー・リン氏だった。 「遺伝子サンプルを採取し、分析しようとすると毛皮を傷つける恐れがありますので、毛皮を寄贈したコミュニティから研究の許可を取るべきだと考えました」。当時スミソニアン協会の国立自然史博物館の博士研究員だったリン氏はそう語る。 ポイント氏が初めて毛皮の存在と研究の計画があることを知らされたときは、うれしかったという。ポイント氏は母親から、その母親はポイント氏の祖母からウーリードッグの話を伝え聞いていた。しかし、今生きている人間でウーリードッグを目にした者はいない。 「本当に誰かが所有していたとわかって、まるで古いレンブラントの絵がどこかで発見されたかのような気分です。子どもの頃から聞かされてきた話が本当で、私たちの歴史の一部だと証明してくれるものです」