受注数「月6件以下」→「ハリウッド映画のセット」に 国内で苦境に陥った中小企業の畳店はどう海外需要をつかんだか
~ 中小企業の今とこれからを描く ~ 日本政策金融公庫総合研究所では、中小企業の今とこれからの姿をさまざまな角度から追うことで、社会の課題解決の手がかりを得ようとしています。最新の調査結果を、当研究所の研究員が交代で紹介していきます。前回に引き続き日本らしい製品やサービスの海外展開について取り上げます。最終回は、企業事例をもとに海外に商圏を広げたからこそ得られた成果について考察します。 【写真】ハリウッド映画のセットとして注文が入る森田畳店の畳 (篠崎 和也:日本政策金融公庫総合研究所 研究員) >>>#1「緑茶は米国へ、食品サンプルはインドネシアへ「日本らしさ」が海を渡った物語」 >>>#2「フランスへ渡る駅弁、オーストラリアへ渡る昆布…海外展開の壁、中小企業はどう乗り越えた?」 ■ 海外展開によって得られる成果 前回は、海外展開を成功させるために必要な「商品・サービスのカスタマイズ」「円滑な供給への工夫」「外部資源の活用」の三つのポイントをみてきた。 事例企業はいずれも、文化や生活様式の異なる海外のニーズをよく分析し、通関手続きや法規制に臨機応変に対応しながら商品やサービスを広めていった。そして、自社に不足する資源は、外部と連携することで補った。 【興味のある方はこちらもご覧ください】 困難な道のりをたどったからこそ、得られた成果は大きい。最終回は、日本らしさを海外展開したことによる三つの成果と、地域や社会に与える「波及効果」をみていきたい。
■ 年商の8割を海外事業が占める製茶業 高付加価値化 一つ目が高付加価値化である。海外展開を進めるうえで、現地のニーズに合わせて商品やサービスをカスタマイズしたことが、商品やサービスの付加価値を一層高めることにつながった。 杉本製茶株式会社の製品は味や風味はもちろんだが、安全性や持続可能性に配慮する姿勢も海外から高く評価されている。 2014年という比較的早い時期に、食品の安全管理の国際規格であるFSSC22000の認証を取得した。その後も、有機栽培の農家と連携し、主要国の有機認証を複数取得するなど、オーガニックをうたった商品のラインアップを増やしている。 製造には再生可能エネルギー由来の電力を使用し、CO2の排出量を抑えている。ほかにも、茶葉と一緒に土に返すことができる生分解性素材をティーバッグに用いるなど、環境負荷の低減にも積極的に取り組んでいる。 こうした取り組みのかいもあって、米国では日本に比べて付加価値を付けた価格で販売できているという。今では年商の約8割を海外分が占めている。 進出先のニーズをくみ取り、製品に反映させることで海外の消費者に向けて付加価値を高めていった。それが、価格向上のかたちで自社の売り上げ増加にも大きく貢献しているのである。