<解説>小野憲史のゲーム時評 「ゲーム批評」の思い出(7) “本誌ならでは”の苦労があった表紙イラスト
超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発・産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回も、小野さんの「ゲーム批評」時代の思い出を語ってもらいます。 【写真】いのまたむつみさんが描いたサイバーフォーミュラのイラスト
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イラストレーター・マンガ家で、「テイルズ オブ」シリーズのキャラクターデザインなどで知られる、いのまたむつみさんが亡くなられた。個人的な親交はなかったが、「ゲーム批評」の第4号で表紙イラストを描いていただいた。任天堂の特集号ということもあり、「任天堂魔王とでもいうようなイメージです。あー、任天堂が魔王のイメージって訳じゃないんですけど。ゲームっぽいというか。ファンタジーっぽいというか、安易な組み合わせだったかな?」というコメントをいただいた。これに限らず、「ゲーム批評」ではさまざまな方に表紙イラストを描いていただいたが、そこには本誌ならではの苦労があった。そこで今回は表紙イラストにまつわるエピソードを振り返りたい。
表紙は雑誌の顔であり、「雑誌の売り上げは表紙と特集テーマで変わる」というのが編集部の共通見解だった。そこで表紙イラストもゲームファンと親和性が高い方に、特集テーマに則した内容で描き下ろしてもらっていた。一方で特集テーマが決まるのは前号の校了時期のため、発注のストックが効かなかった。締め切りと刊行サイクルを考えると、毎号1カ月程度しか余裕がなかった。そこで表紙イラストにまつわる業務は、編集長の最重要事項となった。特に「読者ターゲットはゲームファンだが、ゲームファンに媚びない」姿勢を掲げたため、イラストレーターの起用は読者に対するメッセージでもあった。ただし雑誌の性質上、トラブルが発生することもあった。
中でも創刊号のトラブルは忘れがたい。ファンタジー特集ということで、「ファイナルファンタジー」シリーズのイメージイラストで人気を博していた、天野喜孝さんに描き下ろしてもらった。イラストの完成度も高く、いわゆる「ゲーム雑誌」のレベルを超えていた。しかし、確認のため色校正を送ったところ、事務所から物言いがついた。特集の見出しが「ファンタジーは死んだ」だったため、「『天野喜孝』が当て馬に使われているように見える」というのだ。たしかに、そうとられても仕方がないデザインになっていた。