【独自入手】伊藤忠と基本合意のビッグモーター 社内向け“緊急動画”で露見した「経営陣と現場の溝」
ビッグモーターのスポンサー会社について、独占交渉権を獲得した会社がついに明らかになった。それは総合商社の伊藤忠商事株式会社。同社は関連する伊藤忠エネクス株式会社と株式会社ジェイ・ウィル・パートナーズとともに支援に名乗りをあげた。ビッグモーターの創業家である前社長・副社長の兼重親子の関与を一切なくすことが条件だったという。 【内部写真】何度見てもすごい…“コナンくん”と呼ばれた兼重宏一前副社長「腕組み仁王立ちで店舗視察」の威圧感…! 基本合意書を締結したことに関して11月17日にビッグモーターは「当社再建に向けた基本合意書の締結に関するお知らせ」をリリース。また伊藤忠も「ビッグモーター社との基本合意書の締結に関するお知らせ」として公式リリースを出している。 リリースでは両社ともに「デューデリジェンスを開始」という言葉を使用している。デューデリジェンスとは日本語で「買収監査」を意味する言葉で、買収側が対象となる企業の実態を事前に把握するための調査のことだ。省略して「デューデリ」や「DD」などと言われる。もちろんビッグモーターの場合はこれまでに銀行団が用意したコンサル会社であるデロイトによってかなり幅広く深い調査が行われてきており、その結果が今回の「基本合意書締結」発表となったわけだが、これから更に詳しい監査が行われることになる。つまり支援は決定したワケではなく、デューデリジェンスの結果、伊藤忠関連3社が「支援しない」という判断を下す可能性がないとも限らないのだ。 このような中、合意書締結発表の17日~18日にかけて和泉社長からビッグモーターの全従業員に向けて緊急動画が発信されたという。約10分間の動画の中で、和泉社長が現場に送ったメッセージの一部を抜粋する。 「今回締結した基本合意書は(中略)支援が正式に確定したわけではないことを合わせてご認識ください。それに伴ってお客様やお取引先様に対して3社様からの支援が確定したようなコミュニケーションは絶対にしないように徹底していただければと思います。 今、苦しい現場の状況を考えると、たとえば『当社は伊藤忠グループになったから安心してほしい』『いざとなったら伊藤忠商事が助けてくれるので、当社の経営状況に問題はない』などの営業トークをしたくなると思いますが、これらのトークは今の段階では虚偽の発言となりコンプライアンスを最優先するという姿勢から、逸脱しています。 皆様ひとりひとりの発言により、今回の支援の話がなくなる事態が十分にありえますので皆様においては本件に関する不用意なトークを絶対にしないことを私にお約束頂きたいと思います」 このあと、伊藤忠関連3社についての紹介が行われた。加えて3社との連携で生まれる可能性がある新たなビジネスチャンスなどについても伝えられた。そして最後に、今後のスケジュールについても触れており、デューデリジェンスを経て、’24年春には3社による支援を受けて新たな会社としてのスタートを切れるように協議したいと話している。 動画全編を通じて、和泉社長は「コンプライアンス遵守」を全従業員に向けて強く訴えた。そのニュアンスを意訳すると、「不適切な発言や行いは絶対にするなよ! 支援が決まったわけじゃないから、その話も客や取引先に不用意にするな。マスコミの取材を受けるときは必ず広報部に連絡するように!」といった具合だ。ことさらに強調された口止めからは、経営陣と現場の間に大きな溝があることを浮き彫りにさせているようにも感じられた。 しかし、なぜここにきて既報のオリックス株式会社や株式会社IDOM(ガリバーの経営母体)ではなく、伊藤忠に決定したのか。筆者の取材によると、8月末の時点では支援候補の中の一つに伊藤忠の名前があったと聞いている。しかし、10月末には第一候補にガリバーを展開するIDOMが浮上した。支援先決定は間違いないかに思われたが、同社には板金修理の現場での保険金不正請求疑惑が浮上。11月9日までにIDOMはビッグモーター支援を見送ることを明らかにした。そういった中で、もともとの候補であった伊藤忠に決定したという。 支援候補も決まり、経営再建を進めるビッグモーター。買収監査を乗り越え、正式に伊藤忠の支援を受けることができるのか。注目したい。 取材・文:加藤久美子
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