紛争地域から日本人を救出せよ! 多国間演習「コブラゴールド24」にて実施された緊迫の日本人救出訓練【自衛隊新戦力図鑑】
冷戦下、アメリカとタイの二国間演習からスタート
「コブラゴールド」演習は、第1回目が1982年に実施された歴史ある訓練だ。当初はタイとアメリカによる二国間演習だった。ベトナム戦争(1965~1975年)において、アメリカ軍は東南アジア特有の気候や環境での戦闘行動や生存自活、また現地人とのコミュニケーションにおおいに悩まされた。そこで、実地で学ぶべくタイと協力する道を選んだ。 政治的思惑も大きかった。当時は東西冷戦の真っただ中にあり、アメリカはベトナム戦争の敗北により周辺国に共産主義が波及するのを阻止したかったし、全方位外交をとるタイにとっても演習の実施により大国アメリカとの繋がりを持つことができた。 こうして、しばらくは二国間演習というかたちをとってきたが、タイはASEAN(東南アジア諸国連合)における安全保障枠組みの核心となるため、この演習に周辺国も招待するようになり、多国間演習へと発展。日本は2005年から参加するようになった。今年、2024年は2月27日から3月8日の日程で開催された。
「TJNO(邦人輸送)」訓練とは
日本が大々的に参加したのが、3月3日に行なわれたNEO訓練だ。NEOとは「Noncombatant Evacuation Operation、非戦闘員退避行動」の略で、海外で紛争や災害などに巻き込まれた自国民を安全に連れ帰るために行なわれる。2000年代以降の国際テロの増加や、地域紛争の多発によって各国とも、その重要性を認識し、訓練を重ねている。一連のコブラゴールド演習のなかで、この訓練では日本が主導的立場を担っている。 さて、NEO訓練だが、日本はこの言葉を用いず「TJNO(Transportation of Japanese Nationals Overseas)」、すなわち「邦人輸送」と呼んでいる。異なるのは名称だけで行なう内容は変わらない。TJNOは、自衛隊法84条に明記された任務で、すでに実戦の経験もある。2004年、イラク戦争激化にともないイラク南部のタリル飛行場からクウェートまで報道関係者を輸送したのが第1回目となった。TJNOは当初、輸送対象を日本人に限定していたが、現在は外国籍の配偶者や日本企業で働く外国人などにも対象が拡大されている。2023年にはイスラエル情勢の悪化にともないTJNOが実施され、日本人のほか韓国やベトナム、台湾の人々も輸送している。