<北朝鮮内部>企業間の配給格差が深刻化 異例 配給ゼロの労働者が幹部を糾弾する事態も 「配給も出せないあんたは無能だ」
◆副業で稼いで配給出す企業とゼロの企業
問題は、わずか5~7日分の食糧すら配給できない企業が増えていることだ。配給制度復活の動きが、企業の格差と社会の不平等を露呈させる皮肉な状況が生まれているのだ。企業の中には、本業以外の業務…いわば副業で収益を得て、労働者への配給を自力で解決する所がある一方、本業も副業もふるわない所もあるようだ。協力者は次のように説明する。 「恵山(ヘサン)市の場合、鉄鋼工場は1月分の配給が少し出ていましたが、靴工場やビール工場などではまったくなかった。鉄鋼工場は(副業で)暖房用の薪を運送して稼ぎ、労働者の配給をいくらか出せたのです。配給がない職場の労働者たちが大声で文句を言うようになり、経営幹部たちは苦労しているそうです」
◆配給も出せないあんたは無能幹部だ
国家的な祝日である2月16日(金正日の生誕日)の際にも、企業によって「名節供給」(特別配給)に大きな差が出た。労働者の間でさらに不満が募り、経営幹部の無能を非難する騒ぎが発生し、恵山市の労働党組織までがのっぴきならない事態だと認識したという。協力者は騒動について次のよう伝えてたきた。 「恵山市の靴工場で、労働者の不法行為に対する思想闘争会議があったのだが、その場で職場の幹部を、配給も出せず無能だと批判する騒ぎが起りました。その幹部は、『それなら、同志(君)なら配給を全部出せるのか』と反問したところ、労働者たちは『配給も出せないあんたが何の責任者なのか。なぜ我われはあんたの言うことを聞かなければならないのか』と叫んで、会議の場は騒然となったそうだ」
◆配給出す企業にあの手この手で「転職」試みる労働者たち
このような不穏な空気が広がる中、待遇の悪い企業の労働者の間では、まともに配給を出せる「有能な」経営幹部がいる職場に移籍しようとする動きが次々に広がっているという。 「病気の治療、生計の困難、結核感染などを理由に休職を申請し、今度は3カ月後に別の職場に移る申請をするのです。取引して(賄賂を使って)でも移ろうとしています。このような事例が増大したため、人民委員会(地方政府)の労働課では事態を問題視し、休職後は必ず元の職場に復帰するよう指示を出しました。しかし、職場を移動するために居住地まで変える事例もあり、統制は容易ではありません」 パンデミックを奇貨として、金正恩政権は多くの分野で強引に国家統制を強化する政策を進めてきた。ポストコロナの今、その歪みと矛盾が噴出し始めたと見ることができるだろう。 アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮国内に搬入して連絡を取り合っている。
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