【社説】肥薩線復旧へ 鉄道を存続するモデルに
豪雨被害で寸断されたJR肥薩線の一部が、鉄道で運転再開される見通しになった。JR九州と地元の自治体、住民が協力し、赤字ローカル線を存続させるモデルを作り上げてほしい。 肥薩線は熊本、宮崎、鹿児島の3県を走るJR九州のローカル線である。 球磨川の上中流部が氾濫した2020年7月の熊本豪雨で、鉄橋やレール下の路盤が流されるなど400件を超す被害が出た。八代-吉松間86・8キロで運休が続く。 このうち熊本県内の八代-人吉間51・8キロの復旧についてJR九州と県、国が基本合意し、地元が望む鉄路復活へ大きく前進した。 残る人吉-吉松間は宮崎、鹿児島両県を加えて協議する方針だ。全線復旧に向けて進めてもらいたい。 JR九州は鉄道での復旧に難色を示していた。復旧費は235億円に上る。復旧しても大幅な乗客増は見込めず、毎年数億円の赤字が避けられないためだ。 17年の九州豪雨で被災した日田彦山線の不通区間は昨年夏、鉄道より維持管理費が安いバス高速輸送システム(BRT)に転換した。便数やバス停を増やして利便性を高めており、肥薩線もBRT転換が念頭にあったようだ。 熊本県や沿線地域は「肥薩線は復興に欠かせない」と鉄路にこだわった。蒲島郁夫知事が15日に退任する間際で決着したのは、鉄道復旧に努めてきた知事への配慮があったとみられる。 県は台湾積体電路製造(TSMC)進出に伴い、熊本空港への鉄道延伸を検討している。JR九州には、関係をこじらせるのは得策ではないとの判断もあったのだろう。 国のサポートも大きい。復旧費の3分の2に当たる約160億円を河川整備などの公共事業費で賄う。自治体側も費用を賄うことで、JR九州の負担は総額の1割程度まで軽減できた。 線路や駅舎などを自治体が保有し、JR九州が運行を担う「上下分離」により、復旧後の経営リスクもかなり小さくなる。 県と国、JR九州は来年3月までの最終合意を目指す。それまでに解決すべき課題が少なくない。 運転を再開できるのは33年度の見込みで、10年近い時間を要する。沿線の人口はさらに減り続ける。多額の公費を投入して復旧させても、短期間で経営が行き詰まるようでは税金の無駄遣いと批判されかねない。 県と沿線12市町村でつくるJR肥薩線再生協議会がまとめた復興方針案には、観光と日用の両面から利用客の底上げに取り組むことが盛り込まれた。具体策と数値目標を打ち出し、地域を挙げて達成させたい。 赤字路線の存続に多くの地域が悩む。肥薩線の復旧は、公的関与の在り方を考える事例となりそうだ。
西日本新聞