逮捕された途端に劇場の態度が急変…伝説のストリッパーが「自分は利用されていた」と気づくまで
劇場の考え
劇場側としては、裁判を続けて警察に目を付けられるのは避けたかったに違いない。一条は現役を引退するが、劇場はこれからも営業を続けていく。警察との関係をこじらせたくないのが本音だった。一条もこのころになってようやく、劇場や事務所に利用されていたのを理解した。 店は一条のファンで繁盛していた。裁判を支援していた深江も店を手伝っている。客の大半はストリップファンだから、すけべったらしい嫌な男ばかりかと思っていたが、付き合ってみると気さくで気のいい人が多かった。 彼女は一条から、苦労をなめ尽くした者だけが持つ底深い優しさを感じた。店で飲む男たちも、ひたすら一条の優しさに触れたがっているようだった。 一条との交流が深まるに従い、深江は彼女の話にしばしば、「こうあってほしい」という願望が入り交じるのを感じていた。 ただ、深江は単純に「嘘」とは考えなかった。現実がつらすぎるとき、人は虚構の世界に遊びながら、苦しさを癒やす。本人も真実と虚構の区別がつかなくなってしまっているのではないか。それを真実、事実と思い込んでいるのではないか。それほど、彼女の心には深い傷が残されている。誰がそれを「嘘」だと簡単に非難できようか。虚実入り交じる一条の話を、深江はただうなずきながら聞くようにしていた。
小倉 孝保(ノンフィクション作家)