「セルフレジは無料」の常識を疑え、スーパーと空港の共通点から学ぶ
飛行機を利用する人たちが全員、空港の保安検査を受けるために同じ列に並んでいた頃を覚えているだろうか。 遠い昔のことのように感じるが、今では、米国の旅行者は生体情報などをあらかじめ登録して保安検査の列をスキップできるClear(クリア)、米運輸保安局(TSA)の事前審査であるPreCheck(プレチェック)、あるいは従来の保安検査の中からどれを受けるか選ぶことができる。 ここで疑問が浮かぶ。なぜスーパーでの精算は同じように進化できなかったのだろうか。あるいは、進化するべきではないのだろうか。 この2つは極めてよく似ている。 今ではどこの空港にも自動チェックイン機があるが、それが普及するまで、旅行者は皆、係員のいるカウンターの列に並んでいた。人々が自動チェックイン機に慣れるのにはしばらく時間がかかった。実際、いまだにかなりの人が自動チェックイン機を使いこなせず列に並ぶことを選んでいたが、現在ではほとんどの主要空港の旅行者の大半が自動チェックイン機を利用している。 こうした浸透の仕方は、スーパーのセルフレジとよく似ている。登場した頃、買い物客がセルフレジに慣れるまでしばらく時間がかかったが、今では、特に新型コロナのパンデミック(世界的大流行)以降、セルフレジを待つ列は係員が対応するレジの列と同じくらいの長さになることもある。 だが好むと好まざるとにかかわらず、セルフレジはすべてのスーパーが現在抱える悩みの種だ。盗難や万引きから、導入初期によくあった、意図しない「スキャンし忘れ」通知により消費者が感じる不快さに至るまで、セルフレジに対する非難は多い。 米国ではダラー・ゼネラルやターゲットといったあらゆる小売企業がセルフレジと人間がいるレジの適切なバランスを見極めようとしている。 そしてその答えは、ウォルマートによって意図せず示されたのかもしれない。
「セルフレジは無料」の常識
ウォルマートは最近、ちょっとした騒動に巻き込まれた。米経済情報サイトのビジネスインサイダーが、ソーシャルメディアに投稿された写真や 疑問について取り上げ、ウォルマートは「食品宅配のドライバーと(有料会員サービスの)ウォルマート+の顧客だけがセルフレジを利用できるようにしている」とほのめかす記事を掲載した。 しかし、この記事の主張は誤りであることを、ロイター通信がのちに明らかにした。 ロイター通信のファクトチェックのチームは、ビジネスインサイダーの記事は「誤解を招く」とし、「ウォルマートのセルフレジはウォルマート+会員専用ではない。店舗は混雑状況に応じて、会員や宅配のドライバーにセルフレジを振り向けることができる」と指摘している。 だが、もしウォルマートがセルフレジを会員とドライバー専用にしていたとしたらどうだろうか。 ウォルマートの買い物客がセルフレジを使用するのに料金を払わなければならないとすれば、それは本当に悪いアイデアなのだろうか。料金を払う客はセルフレジを利用することができ、払わない客はかつて皆がそうしていたように精算のために列に並ぶとして、それの何がそんなに悪いのだろうか。 米世論調査のギャラップによると、平均的な就労者は年平均4.2回、非就労者は同2.7回飛行機を利用している。この2つの数字は、米国の平均的な世帯がスーパーに行く回数に比べれば大したことはない。統計調査データプラットフォームのスタティスタによると、平均的な世帯がスーパーで買い物する回数は週1.6回だ。 それなのに、米国では空港で保安検査の列に並ぶのを避けるためだけに人々は喜んで高い料金を支払っている。 TSAのプレチェックにかかる費用(オンラインで78ドル)はウォルマート+(年間98ドル)やターゲットの会員プログラムのサークル360(年間99ドル)とほぼ同じで、クリアの料金は年間189ドルにもなる。そのどちらも、送料無料やガソリン割引など、小売店の会員サービスによくついてくる特典は一切ない。 つまり、スーパーが自問すべきなのは「会員専用のセルフレジを設けるべきか、設けないべきか」ではない。考えるべきは、「いくらにするか」だ。20ドルだろうか、それとも50ドル、100ドルだろうか。 その答えはまだわからない。だが、一部のスーパーではすぐにこの方向で実験を始めるに違いない。 スーパーのセルフレジと空港の事前審査は、無視できないほどよく似ている。
Chris Walton