糖質制限すれば必しもず痩せるわけではない…人間が太るかどうかを決めるたった1つの要素
160年近く前に行われていた「低炭水化物ダイエット」
「高インスリン血症」は肥満を招く。 これはとても大切なポイントで、つまりは肥満を解消しようと思ったら、インスリン値を低くすることが重要ということになる。 高度に精製され、加工された炭水化物──砂糖、小麦粉、パン、パスタ、マフィン、ドーナツ、米、ジャガイモなど──は血糖値とインスリン値を上げることでよく知られている。こうした高度に精製された炭水化物が高インスリン血症の主な原因なのだとしたら、体重が増える主な原因もそれだといえるだろう。 この肥満理論は「炭水化物-インスリン仮説」として知られている。「アトキンス・ダイエット」に代表されるような低炭水化物ダイエットの基本的な理論はここからきている。〝太るもと〟である炭水化物を食べなければ、インスリン値を低く保つことができ、体重が増えるのを防ぐことができる。 初めて低炭水化物ダイエットが実践されたのは、はるか昔の19世紀半ばのことだ。 1863年、イギリスで葬儀店を営んでいたウィリアム・バンティングが、世界初のダイエット本ともいわれる『市民に宛てた肥満についての手紙』という小冊子を発行した91・6キロだった彼は、体重を減らそうと食べる量を減らして運動量を増やしたがうまくいかなかった。今日の世界でダイエットに励んでいる人たちと同じように、彼も失敗したのだ。 そこで、外科医のアドバイスもあり、彼は新しい方法を試してみることにした。それまで彼がよく食べていたパン、牛乳、ビール、甘いもの、ジャガイモを厳しく制限してみたところ、彼の体重は減り、減った体重も維持することができたのだ。 20世紀になると、精製された炭水化物の量を減らした食事療法は、肥満の治療として標準的なものになった。
「糖質」だけが原因ではない
低炭水化物ダイエットは広く成功しているものの、炭水化物――インスリン仮説はまだ不完全だといえる。たしかに精製された炭水化物は高インスリン血症の主な原因ではあるが、それだけが原因ではないからだ。 ほかにも大きな影響を与えるものがある。 そのなかでも特に重要なのが「インスリン抵抗性」だ。 インスリンとは細胞の中にグルコースを取りこむための扉を開ける鍵のようなものだ。だが、インスリン抵抗性のある状態になると、通常の量のインスリンでは扉を開けられなくなり、グルコースを細胞の中に取りこむことができなくなるため、血中にグルコースがたまってしまう。 すると、体は抵抗性を克服してなんとかグルコースを細胞の中に取りこもうと、インスリンの分泌量をさらに増やす。その結果、血糖値は通常の値に戻るが、つねに高インスリン血症の状態となってしまうわけだ。 私たちがインスリン抵抗性を問題視するのは、それに端を発した「高インスリン血症」が体重の増加を招くからだ。 文/ジェイソン・ファン 写真/shutterstock ---------- ジェイソン・ファン 医学博士 減量と2型糖尿病の治療にファスティングを取り入れた第一人者。その取り組みは『アトランティック』誌、『フォーブス』誌、『デイリー・メール』紙、「FOXニュース」などでも取り上げられた。ベストセラー『The Obesity Code』(『トロント最高の医師が教える世界最新の太らないカラダ』サンマーク出版)の著者。カナダ・オンタリオ州のトロントに在住。 ----------