大正時代の「上級国民」とネット時代の「上級国民」との違いは 人気評論家が説く「上級語彙」の魅力
階級的な含意は皆無
しかし、本書タイトルにある「上級語彙」にそういう意図は微塵(みじん)もない。齋藤孝氏との対談でも確言(※3)したように、英語学習の場面で「TOEIC950点超えに必須の上級語彙」などといわれるのとまったく同じ。単に“advanced vocabulary” の訳語であり、階級的な含意など皆無である。 幸いにも、本書タイトルに対して、その類の苦情、批判はほとんど認められなかった。危惧は杞憂(※4)に終わった。しかし、上級語彙をめぐる事実問題とは別に、階級、階層と言葉遣いとの関連は一考(※5)に値するかもしれない。
※1 たいと【泰斗】学術や芸術の分野で大家とされる人物。斯界(しかい)(=この分野、この領域)の権威として仰ぎ尊ばれる者。第一人者。オーソリティ。大宗(たいそう)。 ※「泰山北斗」の略。泰山(中国山東省泰安市郊外にある名山)も北斗七星も仰ぎ見られる存在であることから、権威者の隠喩(いんゆ)となった。 ※2 あんあんり【暗暗裡/暗暗裏】人知れぬうち。人知れず。内々。秘密裡。こっそり。人目を盗んで。 ※3 かくげん【確言】明確に言い切ること。きっぱり言明すること。またはその言葉。「対話は今後も継続すると確言した」「彼はサッカー日本代表の勝利を確言していた」 ※4 きゆう【杞憂】ありえない事態を心配して思い煩(わずら)うこと。根拠のない不安に戦(おのの)くこと。取越(とりこ)し苦労。「僕の杞憂に終わって幸いだった」「開催が危ぶまれたが杞憂に過ぎなかった」 ※もともとは「杞人の憂い」の意味。古代中国、春秋時代の杞の国の人が、天が落ち、地が崩れることを危惧するあまり、夜眠れず、食も細ってしまったという故事にちなむ。 ※5 いっこう【一考】一度考えをめぐらすこと。一回考察してみること。「一考に値する」「ご一考いただきたく存じます」「この案件は一考を要する」「彼女の失敗については一考の余地がある」「一考を煩わす(=一度考察する手数をかける)」
デイリー新潮編集部
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