捨目師作「伎楽面　酔胡従」＝宮内庁正倉院事務所提供

　奈良国立博物館（奈良市）で26日に開幕する「第76回正倉院展」で、752年の東大寺大仏 開眼会（かいげんえ） で披露された楽舞の面とみられる「 伎楽（ぎがく） 面　 酔胡従（すいこじゅう） 」が出展される。奈良では別の二つの展覧会でも東大寺などが所蔵する伎楽面を展示。人間味あふれる表情が魅力で、大仏開眼会など 法会（ほうえ） の華やかさを伝える計17面が見られる貴重な機会となる。（藤本幸大）

春日人万呂作「太孤父」（個人蔵）＝奈良国立博物館提供

　伎楽は飛鳥時代に大陸から伝わったセリフのない仮面劇。酔っ払いの「酔胡従」や力士、若い女性の「 呉女（ごじょ） 」らが登場し、7～8世紀には法会などに際して盛んに演じられた。

捨目師作「師子児」（東大寺蔵）＝奈良国立博物館提供

　正倉院と東大寺で保管された伎楽面のうち、東大寺の面は明治時代に神仏分離令による混乱の影響で一部が流出した。現在は正倉院と寺に計約200面が残るほか、個人や海外の博物館も所有している。

基永師作「酔胡王」（東大寺蔵）＝奈良国立博物館提供

　正倉院展では3件の伎楽面が公開される。このうち「酔胡従」は64年ぶりの出展で、裏側に作者を示す「 捨目師（しゃもくし） 作」の墨書がある。 桐（きり） をくりぬいて赤く塗り、頭には馬の毛を貼っていたという。

　正倉院の伎楽面には、記された年月日などから大仏開眼会で使われたと分かる面がある。この「酔胡従」には記されていないが、作風などから捨目師は開眼会で使われた面を作っていたと考えられる。

　酔胡従は8人で構成され、楽舞の終盤、泥酔した演技で楽しませた。険しい表情をしている面は人間味も感じさせ、自然なしわの表現などは作者の技術の高さを示している。

　捨目師作の伎楽面は、東大寺ミュージアム（奈良市）の特集展示（来年2月7日まで）でも、童子の面「 師子児（ししこ） 」など寺所蔵の5面が並ぶ。久永 昂央（あきひさ） 学芸員は「酔胡従のような日本人離れした顔から、えくぼのあるリアルな子どもの顔までうまく表現している。作り手としての高い力量を感じる」と評価する。