中村梅枝「代々の『時蔵』に恥じないように」 六月大歌舞伎で襲名
女形の筆頭格として知られる中村時蔵(69)が歌舞伎座「六月大歌舞伎」(6月1~24日)で43年間、慣れ親しんだ名跡を長男の中村梅枝(36)に譲り、初代中村萬壽(まんじゅ)を襲名する。「6代目時蔵」を襲名する梅枝は祖父、父も襲名披露で演じた「妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)三笠山御殿」のお三輪を初役で勤める。時蔵は「山姥」に出演。梅枝の長男・小川大晴(ひろはる、8)は「5代目梅枝」として初舞台を踏む。時蔵と梅枝にいまの心境と萬屋の将来像を聞いた。 * * * * 愛称「梅(ばい)ちゃん」。時蔵襲名で「そう呼ばれなくなるのも寂しくなりますね」。素顔の梅枝は女形の時に出す高い声とは違い、低音が響く美声の持ち主だ。「襲名の実感が湧いてきました。ようやく」。2021年夏、父に「譲ろうと思う」と告げられた。「『時蔵』の重みは父を見て理解してきたつもり。それだけに父には最後まで時蔵であり続けてほしい気持ちもあった」。1年半考えた。「松竹の方にも話を聞いてもらって。『役者で反対する人はいないと思うよ』という言葉に背中を押されて」 新作歌舞伎が増える昨今。時蔵の意向もあり「ばか正直なくらい古典一筋で来ました」。確実に実力をつけて成長。18、19年には坂東玉三郎の教えで女形の超難役「阿古屋」に挑戦も転機に。「鍛えられました」。若手公演の浅草歌舞伎には一度も出ていない。毎年1月は尾上菊五郎率いる国立劇場公演に参加。「若い自分が一番下手であることを思い知り、もがいた。いま思えば計り知れないほど貴重な時間です」。襲名披露ではお三輪を演じる。「代々の『時蔵』に恥じないようにしなければ」 人前に出るのが苦手な子どもだった。それが高校入学後、変わる。「白塗りして役で舞台に立つと、人前が嫌でなくなっていたんです」。日舞、三味線、琴、清元、長唄、茶道、書道、鼓…。幼少期からの習い事が芸の土台をつくっていた。 息子の大晴は初舞台で5代目梅枝に。「僕の子と思えないほど自由な性格です」。家庭では時蔵がそうだったように芝居の話を持ち込まない。「襲名の重大さはまだ分からなくていい。休まず元気にやってくれたら」。緊張の面持ちから一瞬、柔和な父親の顔がのぞいた。(内野 小百美) ◆中村 梅枝(なかむら・ばいし)本名・小川義晴。1987年11月22日生まれ。36歳。91年6月、歌舞伎座「人情裏長屋」の沖石一子鶴之助で初お目見得。94年6月、歌舞伎座「幡随長兵衛」の倅長松ほかで4代目中村梅枝を襲名し、初舞台。2018年12月、歌舞伎座で約20年間、坂東玉三郎しか演じていなかった「壇浦兜軍記 阿古屋」の阿古屋を演じ、話題に。趣味はゴルフ。 ◆中村 時蔵(なかむら・ときぞう)本名・小川光晴。1955年4月26日、東京都生まれ。69歳。60年4月に3代目中村梅枝を名乗り初舞台。62年1月に父・4代目時蔵が34歳で死去。81年6月歌舞伎座「妹背山婦女庭訓」のお三輪ほかで5代目中村時蔵を襲名。当たり役は「本朝廿四孝」の八重垣姫、「鎌倉三代記」の時姫、「魚屋宗五郎」のおはま、「妹背山」のお三輪など。屋号は萬屋。
報知新聞社