内部通報1万人調査で見えた法の穴 降格・減給・嫌がらせの恐怖
多くの企業で機能していない内部通報制度。消費者庁が法改正に動き出した。消費者庁が実施した就労者1万人アンケートから、法改正の論点が見えてくる。 【関連画像】内部通報を行っても「隠ぺいされるか、通報者の犯人探しが始まるだけ」。ダイハツ工業の調査報告書には、従業員の諦めの声が記された。写真は、ダイハツの京都工場に出勤する従業員たち(写真:時事) 「隠ぺいされるか通報者の犯人探しが始まるだけ」「内部通報をして事態が是正されるとの実感を持つことができない」「これでは積極的な利用を期待することはできない」 これらはそれぞれ、ダイハツ工業、豊田自動織機、ビッグモーター(東京都多摩市)が公表した調査報告書に記された報告である。いずれも、内部通報が機能しなかったことを指摘するものだ。次々と発覚する大手企業の不祥事で、内部通報体制の不備が明らかになっている。 公益通報者保護法では、従業員数301人以上の企業に内部通報体制の整備を義務付けている。この法律は企業で機能しているのか。消費者庁が、実態の把握に動いた。 ●約半数が「制度知らず」 消費者庁は2023年11月、従業員3人以上の企業に勤務する全国15~79歳の就業者を対象にインターネット調査を実施した。有効回答数は1万人である。その結果を24年2月に公表した。 現行の公益通報者保護法は22年6月に施行され、施行後3年後をめどに改正すると定めている。消費者庁は24年度内に有識者会議を立ち上げて改正議論を進め、25年6月の法改正を目指している。アンケートの結果は、これから始まる議論の下地となる。消費者庁幹部は、「これは日本企業の従業員の人権に関わる問題だ」と意気込む。 1万人アンケートの結果から何が見えてくるのか。 まず見えてくるのが、内部通報制度の認知度の低さだ。制度を「知らない」「名前は聞いたことがある」と答えた割合は全体で61.4%だった。従業員5000人超の企業でも47.7%と、約半数の人が内部通報制度を理解していない。 内部通報制度の理解度は、通報意欲と関係がある。制度を「よく知っている」と答えた人の53.7%が「相談・通報する」と意欲を示したのに対して、制度を「知らない」と答えた人のうち通報意欲を示したのはわずか9.2%である。理解度が高いほど、勤務先で法令違反を目撃したときの通報意欲が高い。 制度を知ったきっかけは、「勤務先における研修・周知」が75%で最多だった。内部通報窓口が設置されていることを知ったきっかけも、「社内研修・説明会」が59.3%と最も多く、続いて「社内トップによるメッセージ発出」の32.7%だった。 消費者庁の新井ゆたか長官は2月29日の記者会見で、「企業が通報窓口をつくっていても知らされていない、従業員が分かっていないという、残念ながら極めて初歩的な段階にある」と述べた。