卓球・伊藤美誠の全日本史上最年少3冠達成の裏に知られざる復活秘話
その効果が最初にあらわれたのは、世界選手権ドイツ大会(2017年5月29日~6月5日/デュッセルドルフ)だった。早田ひな(日本生命。当時、希望が丘高校)とのペアで女子ダブルス銅メダルを獲得。この時はまだ中国ラバーを使いこなすまでに至らず、持ち前の思い切りのいいプレーができたとは言い難かった。特に伊藤の得意技であるスマッシュが決まらない。それもそのはず、粘着質の中国ラバーは球離れが遅く、一瞬で打ち込むスマッシュには不向きなのだ。それでも我慢のプレーでダブルスのメダルを持ち帰り、この大会で復調のきっかけをつかんだ。 以降、調子を上げていった伊藤は昨年の夏、約半年間使用した中国ラバーをもとの日本製に戻す決断を下した。そして臨んだ8月のワールドツアー・ブルガリアオープンで女子シングルス準優勝、翌週のチェコオープンでは同種目優勝と立て続けに結果を出した。さらに9月には2週間、世界最高峰といわれる中国超級リーグの下部リーグにあたる甲Aリーグに参戦。出場した試合を全勝し、チームを決勝トーナメントに導く活躍を見せた。 また、年末のクリスマスイブには、今年の世界選手権スウェーデン大会団体戦(2018年4月29日~5月6日/ハルムスタッド)の日本代表最終選考会で優勝。他を寄せ付けない圧倒的な強さで世界選手権の出場権をもぎ取り、その勢いを年明けの全日本選手権3冠へとつなげていった。 一見すると、中国ラバーから日本製のラバーに戻したことで、また結果が出るようになったかにも思える。しかし、決してそうではない。確かに陣営は伊藤の大きな得点源であるスマッシュを生かすべく、ラバーをもとに戻したのだが、中国ラバーを使った時期があったからこそフィジカル強化が加速し、足もとから全身を使ってボールに力を伝えるパワー打法も習得できた。 その証拠に今年の全日本選手権ではラリーの威力が明らかに増し、浮いてきたチャンスボールを一撃で仕留めるスマッシュが面白いように決まった。女子シングルス準決勝で伊藤に破れた石川佳純(全農)が、「とにかくスマッシュが良かった」と再三、口にしたほどだ。 鍛え上げたフットワークも抜群に良くなり、左右に振られたボールも150cmほどの小さな体でバンバン止める。伊藤はこれを「動く卓球」と呼ぶ。自分から仕掛けていくボールにもミスが減った。彼女本来のスピードにパワーと機動力、そして安定感が加わった現在のプレーを見ていると、陣営の試行錯誤が決して遠回りではなかったことを確信する。 全日本の新女王となった伊藤は、今シーズンからいよいよ本格化する2020年東京五輪の代表争いに向け幸先のいいスタートを切った。2月にはチームワールドカップ(2月22~25日/英ロンドン)も控えており、石川佳純(全農)、平野美宇(JOCエリートアカデミー/大原学園)、早田ひな(日本生命)らと出場することが決まっている。世界選手権スウェーデン大会団体戦の前哨戦の意味合いもあり、この大会に伊藤は並々ならぬ闘志を燃やしている。狙うはもちろん、金メダルだ。 (文責・高樹ミナ/スポーツライター)