「天の川銀河」の外側の回転は遅いと判明 中心部の暗黒物質は少ない可能性
■「天の川銀河」の回転速度はよくわかっていない
意外なことかもしれませんが、私たちが住んでいる「天の川銀河」の回転速度の測定は困難で、近年まであまり正確な値が測定されていませんでした。前述の通り、銀河の回転速度は恒星の移動速度を元に計算します。天の川銀河以外の銀河にある恒星の場合、地球から恒星までの距離は銀河までの距離とイコールであるため問題にはなりません。 しかし太陽系が属する天の川銀河の場合、恒星までの距離は地球に近いものから遠いものまで様々な値を取ります。地球は天の川銀河の中ほどに存在するため、銀河の外縁部に存在する恒星は地球からの距離も遠くなります。すると、見た目の位置変化がほとんど無くなるため、恒星の移動速度を測定することも難しくなるのです。 このため、天の川銀河の回転速度の正確な測定は、恒星の位置や距離を極めて正確に観測し、しかもそのデータが多数揃うことで初めて実現します。今回のOu氏らの研究も、恒星の位置に関する多数の正確な測定データがあってこそ実現したものです。特に利用されたのは、ESA (欧州宇宙機関) が打ち上げた宇宙望遠鏡「ガイア」のデータです。ガイアは多数の恒星を一度に観測し、その正確な位置データを取得しています。今回の研究ではその他に「SDSS(スローン・デジタル・スカイサーベイ)」、「2MASS(2µm全天サーベイ)」、「WISE(広視野赤外線探査機)」の観測データも使用されました。
■天の川銀河の外側は遅く回転していることが判明!
結果の一部は驚くべきものでした。天の川銀河の回転曲線の大部分は他の銀河と一致しましたが、中心から約6万5000光年以上の外縁部で回転曲線の急速な低下が見られたためです。つまり、天の川銀河の最も外側にある恒星は、他の銀河の測定によって推定された回転曲線とは一致せず、より遅い速度で公転していることが判明したのです。 外縁部の恒星の移動速度を説明するために暗黒物質の存在を仮定した、という前章の説明からすると、これは逆の結果と言えます。つまり、外縁部の恒星の移動速度が遅いということは、その分だけ天の川銀河に含まれる暗黒物質の量が少ないということになります。Ou氏らのシミュレーションによれば、銀河の中心部の暗黒物質の量が従来の予測より少ないと仮定した場合、今回の観測結果を最もよく説明できました。 それを踏まえて再計算をすると、今回の研究では、暗黒物質を含む天の川銀河全体の質量(ビリアル質量)は太陽の1810億倍であると計算されました。これは従来の推定(一般化NFWプロファイル)である太陽の6940億倍に対して約4分の1という大幅に少ない値となります。 今回の結果は従来の研究と比べて大きな違いがあるため、Ou氏らもその取り扱いに困っています。天の川銀河は宇宙にある典型的なタイプの銀河であり、今回の結果は宇宙全体に適用可能なはずだと考えられているからです。今回示された通り銀河に含まれる暗黒物質が真に少ないのか、それとも研究手法に何らかの誤りがあっておかしな結果が導き出されたのか、あるいは修正ニュートン力学のような新たな重力理論の兆候であるのかは誰も分かっていません。Ou氏らは、今回の研究で天の川銀河の回転曲線を得ることが可能なことが示されたため、さらなる改善された計測結果や研究手法によって今回発生した矛盾が解消されるのではないかと期待しています。 Source Xiaowei Ou, et al. “The dark matter profile of the Milky Way inferred from its circular velocity curve”. (Monthly Notices of the Royal Astronomical Society) Jennifer Chu. “Study: Stars travel more slowly at Milky Way’s edge”. (Massachusetts Institute of Technology)
彩恵りり