使い勝手改善の見直しが検討「成年後見制度」課題と検討されている見直し案を解説
内閣府の令和5年高齢社会白書によれば、日本の65歳以上の人口は3,624万人で、高齢化率は29.0%(総人口に占める65歳以上人口の割合)。 1年の家計は4月に見直し!今年は赤字にしない!! そのうち認知症罹患者数は、来年2025年に約700万人見通しで、この人数は65歳以上の高齢者約5人に1人の割合になると見込まれています。 この制度は、こういった状況下で課題も見えてきており、現在、法務省民事局において見直しに向けた検討が行われています。 この制度の現状や課題等については、法務省が公表している資料を基に説明していきます。 成年後見制度(せいねんこうけんせいど)ってどういう制度? 認知症や精神障害など判断能力が不十分な人に対する法的な保護などの支援を行う制度です。 たとえば親の認知症が進んだ場合、家の売却や預金の解約は原則できなくなります。 「成年後見制度」は、この壁を取り除くために現在導入されています。 これは援助を受ける本人の利益となることを最優先に考え、本人の財産を管理・保護したり、医療・介護に関する手続きや法律行為を行ったりするための制度です。 法定後見制度には、判断能力の程度に応じて 後見 保佐(ほさ) 補助(ほじょ) の3つの種類があります。 ここでは程度の重い「成年後見」を中心に取り上げていきます。 この制度に関わる主な当事者 成年後見制度には、これに関わる主な当事者を知っておくと、よりイメージし易くなります。 本人この制度で援助を受ける人 成年被後見人(せいねんひこうけんにん)といいます。親族後見人本人に対して支援を行う人 本人からみて子供、兄弟姉妹、配偶者、親などの親族が該当します。専門職後見人本人に対して支援を行う人 司法書士、弁護士、社会福祉士等の専門家が該当します。後見監督人成年後見人が後見の事務を適切に行っているか、問題点がないかを確認する役割をもち、後見人の仕事をチェックする人 家庭裁判所が必要と認めた場合、選任されます。申立人この制度の利用を申請する人 本人からみて配偶者、4親等内の親族、専門職後見人、市町村長等が該当します。家庭裁判所この制度の許認可機関 申立書類の審査、申立人の面接、後見人、後見監督人などの選任を行います。裁判所は本人の住民票上の住所地にある家庭裁判所です。 この制度で利用できる主なものは? 成年後見人がこの制度で利用できることは、 基本的に本人の財産管理 法的行為 身上保護 などですが、内容によっては利用できない事もあるので注意が必要です。 この制度の利用状況 法定後見制度および任意後見制度の利用者数は増加傾向ですが、いずれも微増の状況です。 具体的な利用者数は、約24万5,000人(令和4年12月末時点)なので認知症罹患者数全体のわずか約3.5%の非常に低い利用率です。 この制度を利用する主な動機 この制度を利用する主な動機は、下の図のとおり預貯金等の管理・解約と身上保護が過半数を占めています。 特に、預貯金等の管理・解約については、 「特に本人の日用品や食料品などの購入代や在宅介護・デイサービス・介護施設等に関わる利用料金の支払いを本人の預金口座からの引き出しや引き落としの為」 が主に考えられます。 誰が後見人となっているか? 成年後見人などに選任される人は、親族以外の第三者が全体の約80%で圧倒的に多く、専門職後見人が占めています。 その内訳は、司法書士、弁護士、社会福祉士などが選任されています。 親族などは約20%に過ぎませんが、子が過半数を占めているほか、兄弟姉妹、その他親族の順となっています。 後見人に親族が少ない理由 後見人に親族が選任されない主な理由の一つには、 親族後見人等による財産の使い込みなどの不正行為があること で、最近の不正報告件数や被害額ともに減少傾向になっていますが、専門職後見人とくらべ圧倒的に多いためとされています。 上述の事象も踏まえた上で、次のような理由もあります。 ・親族間に意見の対立がある ・親族後見人の候補者が遠隔地に住んでいる又は本人との関係が疎遠 ・親族後見人の候補者に住宅ローン以外の借金がある ・親族後見人の候補者と本人との生活費が十分分離されていない ・親族後見人の候補者が高齢や健康上の問題で事務が適正に行えない など 利用にかかわる費用負担は? 申立にかかる費用は、申立手数料・登記手数料(収入印紙代)、裁判所からの送付費用として郵便切手代、戸籍謄本や住民票などの取得手数料等、合計1万円以内です。 医師による「診断書」だけでは本人の判断能力が明確でない場合、詳しい「鑑定」が求められます。 その場合は5万円~10万円の費用負担が見込まれます。 ただし、令和4年の実績は全体の約4.9%と僅かです。 専門職後見人等に支払うコスト 後見人は、本人やその家族の状況を良く知っている子や配偶者など、親族が後見人に選任されればそれに越したことはありません。 しかし、上述のとおり専門職後見人が選任される場合が圧倒的に多くなっています。 専門家が後見人になると報酬が下表のとおり継続的に発生します。 これらの費用は本人の財産から支払われますが、とは言えかなりの負担となります。 この制度の何が課題なのか、なにを見直そうとしているのか? 法制審議会において、この制度の課題とその対応について、見直しに向けた検討がされていますが、その主な議題は、次のような項目です。 現在の課題1 遺産分割などの相続手続きや居住用不動産の処分など、この制度の利用目的としている項目が解決・終了しても、本人の判断能力が回復しない限り利用をやめることはできない 【見直しの検討】 一定の期間を設けることや具体的な利用目的を考慮して開始し、目的等が完結すれば終了する仕組みを検討する 現在の課題2 一度申立をした後は本人が亡くなるまで後見人を原則辞めることができないため、本人の状況の変化やそのニーズに合った保護を受けるとこができない 【見直しの検討】 本人の状況に合わせて成年後見人等の交代を可能とし、適切な保護を受けることができる仕組みを検討する 現在の課題3 成年後見人には包括的な取消権や代理権があるため、本人の自己決定が必要以上に制限されることがある 【見直しの検討】 本人の同意を要件とすることや本人にとって必要な範囲に限定して付与することなどの木目細かい仕組みを検討する 現在の課題4 この制度の利用者数が極めて少なく、制度の周知をより一層図る必要がある 【見直しの検討】 いままで取り組んできたこの制度に関するパンフレット・リーフレット・ウェブサイトなどをより一層充実させ広く国民に周知する などが見直しに向けて検討されている課題です。 この見直し案のなかでは専門職後見人や監督人に対する報酬の支払による金銭的負担について直接的な言及はありませんが、この制度は、この利用目的等が完結すれば終了できる見通しのため、今後は経済的な負担の軽減も期待できそうです。 認知症に関連した成年後見制度については、決して他人事ではなく誰もがいずれ直面する問題です。 世間は、プチお得な情報だけに興味・関心が向きやすいですが、こういった負の情報についてももっと身近な問題として捉えてみてください。
manetatsu.com 小林 仁志