wacci・橋口洋平が『今日好き』提供楽曲に込めた想い 「青春時代なら違う歌詞が書けたとは思わない」
ABEMAにて放送中の恋愛番組『今日、好きになりました。』(以下:今日好き)の歴代参加メンバーによるによる音楽プロジェクト「Bouquet by 今日好き」。4人組ボーイズグループ「crhug」(たつや、ざんさ、はなみち、くにはる)、3人組ガールズグループ「arban」(ゆのん、るる、その)として音楽活動を行っている。 【写真】橋口洋平の撮り下ろしカット 本プロジェクトの締めくくりとして、この2組の合同楽曲「花束」が発表された。楽曲の作詞・作曲・プロデュースを担当しているのは、「恋だろ」「別の人の彼女になったよ」などで知られるwacciの橋口洋平(Vo./Gt)だ。そこで、今回はメンバー7人の関係性や絆をテーマにした「花束」の制作について、橋口自身に語ってもらった。 ・「もっとすごい人がいる」現実を直視 メンバーからの謙虚さから感じた“背景” ーー橋口さんは恋愛リアリティーショー『今日、好きになりました。』の出演者による音楽ユニット「crhug」「arban」の合同楽曲「花束」の制作、プロデュースを担当。オファーがあったときはどう思われましたか? 橋口洋平(以下、橋口):「僕でいいならぜひ」ということでお受けしました。メンバーのみなさんの思い出に残るようないい曲を提供できたらいいな、と。みんなとは生きてきた時代が違いますけど、どの世代であっても感じられること、共通する思いをピックアップにして描けたらなと思ってましたね。 ーー事前に番組(「Bouquet by 今日好き」)を観られたそうですが、そのときの印象は? 橋口:まず「純粋な子たちが集まってるんだな」と感じましたね。メンバーのなかには音楽経験者もいたけど、ほとんど経験がない子もいて。それでも「やってみたい」「自分を変えたい」という思いをしっかり持って、勇気を持って踏み出してきたという印象もあって。そういう部分は楽曲のなかでもしっかり汲み取りたいなと。 ーー動画で拝見しましたが、メンバーと初めて対面したとき、すぐに「花束」というワードが出てましたよね。 橋口:そうですね。最初にお会いしたときはこちらはまったくのノープランで、お話していくなかでヒントを掴めたらいいなと思っていたんです。でも、メンバーのほうから「花束」という言葉が出てきて。プロジェクト名がBouquetなので“花束”はピッタリだなと。あのときに話したことも余すことなく入れたいなと思っていて。 ーーこのプロジェクトのなかで経験したこと、悩みなども話していましたよね。 橋口:みんなすごくキラキラしていて、お会いしたときも「わ、本物だ!」という感じだったんですよ(笑)。でもお話を聞いていると、いろんな思いを抱えているんだなって。あと、やっぱりみんなすごくピュアで、思いやりがあるんですよ。いまの若い世代は自分でいくらでも情報を取りに行けるし、「自分にはこれが向いているかも」ということにも気づきやすいと思うんです。その一方で「もっとすごい人がいる」ということもよくわかっていて。たとえばスポーツをやってる子なども、通ってる学校で1番だったとしても、選抜チームに入るともっと上手い人がいて打ちのめされたり。世の中における自分の順位がすぐに見えるというか。だからこそみんな謙虚だし、周りの人を大事にしたり、思いやりを持てるのかもしれないですね。 ・「天才肌」に「誰かになろうとしない感じ」……メンバーそれぞれの歌の印象 ーー「花束」の制作はどんなふうに進められたんですか? 橋口:「花束」というキーワードがあったので、その言葉をどういう位置に置くか、メンバーたちによとって花束とはなんなのか? ということを考えるところからはじめました。ひとりひとりが個性のある花で、それが集まることで花束になるというイメージもあると思うんですけど、自分としては、「みんなで集まった日々、一緒に過ごした時間こそが花束なんだ」というほうがシックリ来て。いつか束ではなくなったとしても、一緒に過ごした時間したときのことは消えることはない。そこから「さよならなんかに負けない」というサビのフレーズが出来て、それが自分のなかでストンと来て。 ーー「さよならなんかに負けない」「思い出は/さよならなんかじゃ枯れない」ですね。 橋口:はい。その後はけっこう早かったし、スムーズにできたねました。軸になる歌詞があると迷わないし、スッと書けたりするんですよね、やっぱり。みなさんからもらったワード(花束)にいい形で乗っかれたし、よかったです。 ーー曲調はミディアムバラード。生楽器の響きを活かしたバンドサウンドも歌詞の雰囲気にぴったりだなと。 橋口:ピアノ1本で合唱曲としても成立するし、バンドサウンドで青春っぽさを表現できたらいいなと思ってましたね。男性メインのパート、女性メインのパートがあり、最後はみんなで歌うという構成も最初から考えていて。(複数メンバーの)ボーカルグループが全員で歌うときのパワーって、すごいじゃないですか。それはバンドでは絶対に出せないものだし、今回もぜひ取り入れたくて。 ーーさらに男女のハモリのパートもあって。聴きどころ満載だなと。 橋口:キーの設定もいろいろ試しました。1番のAメロは男性メンバーが中心で、Bメロとサビは女性メンバーがメイン。2番のAメロは女性がオクターブ上で歌って、最後に大きな転調があって、全員で声を合わせて歌う。女性シンガーへの楽曲を提供させていただいたこともかなりあるので、その経験も活きてますね活かせているように思います。 ーー歌のレコーディングはいかがでした? 橋口:正直、大変でした(笑)。7人全員が揃う1日のみで全てを録るのは、大変でした(笑)。1人につき65分で順番に録っていったんですよ。55分1時間くらいで録って、僕とエンジニアさんの2人でセレクトして、エディットして、「次の人どうぞ」という感じで。限られた時間でしたけど、みんなすごくいい歌を歌ってくれて。仮歌のときとは比べものにならないくらい歌えていたし、たくさん練習したことがわかり、感動しましたね。 ーーメンバー一人ひとりの歌の印象についても教えてもらえますか? 橋口:はい。最初にレコーディングしたのは、ゆのん(中島結音)ちゃんだったんですよ。歌が安定してるし、ゆのんちゃんのボーカルを最初に録ることで、みんなの軸になってくれたと思います。彼女の明るさが声に乗っていて。しっとりした感じ、切ない雰囲気のなかで、しっかり明るさを出してくれたのもよかったです。 ーーたつや(南平達矢)さんは歌い出しを担当。 橋口:歌い出しはすごく大事だし、曲のはじまりをしっかり担ってくれましたね。たつやくん、いい声なんですよ。音楽経験があって、ミュージシャンとしてやっていきたい部分もあるみたいで。 ーーはなみち(植野花道)さん、さんざ(久保田燦)さん、くにはる(國本陽斗)さんはいかがでした? 橋口:はなみちくんは涙もろいんですよ。レコーディングでも泣いたりするのかなって思ってたんですけど、ぜんぜんそんなことなくて、笑顔で歌ってました(笑)。低めのトーンが優しくて、この曲にも活かせていると思います。僕も歌うときに低いトーンを大事にしているので、そこは共通している部分なのかな、と。さんざくんはとにかく元気。彼の熱量によって成り立ってる部分もすごくあると思います。リーダーシップもあるし、自分がダメなときは誰かに頼る素直さもあって。そういう力強さや優しさは歌にも出ているんじゃないかな。くにはるくんは起用器用というか、天才肌なところがあって。歌録りのスピードもいちばん早かったし、声もいいし、シンガーとしての地力があるなと感じました。ちょっとミステリアスなところも彼の良さですよね。 ーーるる(実熊瑠琉)さん、その(平松想乃)さんに関しては? 橋口:るるちゃんはかわいい声だし、歌い方にクセがなくて、まっすぐに聴こえてくるんですよ。すごく素直だし、誰かになろうとしない感じもいいですね。そのちゃんは自身自信がないタイプかなと思ってたんですけど、これまでの活動のなかでしっかり意思を持って、胸を張って歌えるようになって。「花束」のレコーディングもこちらの要望にハキハキと応えながら歌ってくれましたね。自信が乗ってくると、歌はすごく変わるので。 ーーやっぱりメンタルが大事なんですね。 橋口:そうだと思いますよ。メンバーのみなさんの歌を聴いてると、「歌は気持ちなんだな」と教えられますね。キャリアのあるプロのシンガーには感じられない力があるというか。 ・純粋な事実を述べる 橋口なりの“寄り添い方” ーー橋口さん自身が「花束」の制作、プロデュースを通して気づいたことはありますか? 橋口:いま話した「気持ちによって歌は変わる」というのもそうですし、あとはそうですね……。これはニュアンスの話なので上手く言語化できるかわからないんですけど、僕は年齢的にも、青春時代を俯瞰して見てるんですよ。これから“今日好き”みたいなドキドキするような恋愛も経験しないだろうし(笑)。「花束」の歌詞もどこか客観的というか、俯瞰で書いてるんですよね。たとえば「君という花と 僕という花で/共に過ごした花束のような日々は」というサビのフレーズもそう。“花束のような日々だったな”とわかるのは、おそらくずっと後のことじゃないですか。まさに時期いま、青春時代を過ごしているメンバーのみなさんがこの歌詞を歌うことって、良さと違和感が同時にあるような気がして。wacciの「空に笑えば」という曲も似たような感じがあるんですよ。青春真っ只中を描いてるんだけど、それを俯瞰しながら歌ってるっていう。 ーー興味深いです。 橋口:僕は自分が実際に経験したことやそのとき思ってることを歌にすることがほとんどなくて。ある程度、客観視できるようにならないと書けないんですよ。ときが経って、“あの日々はこうだったな”と言語化できて初めて曲になる。なので「青春の時期だったら、もっと違う良い歌詞が書けたかも」とは思わないんです。とは言え、青春時代には歌にできることがいっぱい詰まってるんですけどね。 ーー橋口さんが青春時代を俯瞰しながら書いた歌詞を、いままさに青春を過ごしている彼ら、彼女らが歌う。だからこそ「花束」には普遍性が宿っているだと思います。 橋口:ありがとうございます。歌詞のバランスを取るのはかなり難しかったんですけどね(笑)。たとえば冒頭の「あの日 勇気を出してよかった 隣を見れば君の横顔」「なりたい自分になれたかどうか わからないけど 君と出会えた」という歌詞。最初に言ったようにメンバーのみなさんは勇気を出してこの企画に参加して、その結果、7人のつながりが出来た。説教くさくなるのは嫌だけど、この歌詞ってメンバーのみんなみなさんにとっては純粋な事実じゃないですか。“何があっても、このつながりは消えない”というのはテーマの一つではあったんだけど、それをそのまま書くというより、みんなが経験した事実を並べることで感じてもらいたかった。そこに関してはノンフィクションとして描くという意識がありました。そこでしか僕は寄り添えないと思ったので。 ーー「Bouquet by 今日好き」のファンのみなさんに対して、「花束」を通じて伝えたいことは? 橋口:おそらくメンバーのみなさんと近い世代の方が見ていると思うし、みんなの恋愛物語や葛藤みたいなものに共感している方が多い気がして。「花束」で描いている出会いと別れ、そこからまた進もうとする力強さに共感してもらえたら、書き手冥利に尽きますね。 ーー「花束」を7人で歌う姿も楽しみにしている方もたくさんいらっしゃると思います。 橋口:僕も楽しみです。ただ、この曲はたぶん歌うのが難しいんですよ。僕が作る曲はどうも歌いづらいらしくて(笑)。でも、この曲もたぶん歌うのが難しいんですけど、「花束」はいろんな人に歌ってほしいです。合唱っぽくもできると思うので、ぜひ歌ってみてください。
森朋之