実は、多くの天文学者が当初認めなかった「ビッグバン理論」。その痕跡「宇宙マイクロ波背景放射」は偶然発見されたものだった!
絶対温度5ケルビンの黒体放射とは
セルシウス温度における1度の変化は、絶対温度でも1度の変化に対応します。それでは、セルシウス温度と絶対温度の違いは何でしょうか。それは、ゼロ点の定義の違いです。 セルシウス温度では、水の凝固点で0度を定義しました。一方の絶対温度では、物質の完全なる凍結をもって0度を定義します。大まかに言えば、分子の運動が完全に停止する温度として定義するのです。 この絶対温度での0度は、摂氏マイナス273度です。先ほどのガモフが予言した「絶対温度5ケルビン」とは、セルシウス温度に直すと、「5-273=-268」ですから、摂氏マイナス268度という極低温です。 この温度は非常に低く、絶対温度5ケルビンの黒体放射のエネルギーのほとんどは、マイクロ波の電磁波として存在します。マイクロ波は電波の一種ですが、波長が1ミリメートルから1メートルのあいだの電磁波のことです。
ビッグバンの痕跡「宇宙マイクロ波背景放射」
天文学においては、目に見える天体が主要な対象です。日常気がつかないような宇宙全体の電磁波放射は「背景」とよばれます。 たとえば、富士山を眺めたとき、周りの風景は背景ですよね。これに似て、ガモフが予言した5ケルビンで宇宙全体を満たす電磁波放射のことを「宇宙マイクロ波背景放射」(Cosmic Microwave Background Radiation 、略してCMBR)とよびます。 さきほどの黒体放射の説明で、溶鉱炉で溶けた液体状の鉄のたとえを出しましたが、その鉄の温度が違えば、放出される電磁波の強度がいちばん大きくなる波長も異なります。 ようするに、この宇宙マイクロ波背景放射は、かつて高温だった宇宙の痕跡であり、ビッグバン理論を証明するものなのです。
宇宙マイクロ波背景放射、偶然、発見さる!
1964年、宇宙マイクロ波背景放射が観測で発見されました。これにより、皮肉にも、ビッグバン理論のほうが正しいことが証明されたのです。 時間を少し遡ります。前述のように、天文学者の多くはビッグバン理論を信用しませんでした。しかし、物理学者のなかに、その理論の証拠を捜す人たちが現れたのです。その代表格が、ロバート・ディッケです。 彼らは、ガモフの予言である絶対温度5ケルビンの宇宙マイクロ波背景放射を検出するための実験装置を開発して、初検出に挑みました。摂氏マイナス268度という極低温の物体から放出される電磁波と同じものですから、微弱なシグナルです。そのため使用する検出器のノイズ除去は困難を極め、残念ながら、彼らの試みは失敗してしまいます。 そんなとき、突然、宇宙マイクロ波背景放射が発見されました。驚くべきことに、発見した人物は、物理学者でも天文学者でもありませんでした。それは、ベル研究所の技術者たちでした。