<春を駆ける>高知 センバツへの軌跡/上 夏の敗戦“下克上”誓う /高知
2021年7月28日、先代の高知高ナインらは、憧れの舞台を懸けた大一番に臨んでいた。県立春野球場(高知市)で行われた第103回全国高校野球大会高知大会決勝戦。相手は因縁のライバル・明徳義塾だ。 先発は、後にプロ野球ドラフト会議で阪神から1位指名を受けた圧倒的エースの森木大智投手。二回に1点を先取されたものの、150キロ超の速球を武器に、以降は明徳打線を七回まで無失点に抑える完璧な投球。八回表には1点を追加されたが、その裏には現チームでクリーンアップを務める川竹巧真選手(2年)などが2本のタイムリーを放ち同点とし、高知ベンチはにわかに勢いづいた。だが、力投がたたり制球を乱した森木投手は九回表途中で降板。この回には3点を返され、最後の攻撃で点差を縮めることができず高知ナインの夏は終わった。 「このチームなら絶対に甲子園に行けると思っていました」。実力者ぞろいだった前チームの敗戦は、後輩たちに衝撃を与えた。ベンチ入りはせず、スタンドから試合を見ていた日野灯選手(2年)は夏の大会をそう振り返る。 ベンチ入りしていた2年生たちも、己の実力不足を痛感していた。2年ながらサードを守っていた小西拓斗選手は、重要な場面でのバント処理ミスなどで2失策を記録。「自分のせいで負けたんだ」。試合後、呆然(ぼうぜん)とする小西選手に、先輩らはすぐ声をかけた。「お前だけのせいじゃない」。高橋友選手(2年)は4番として4回打席に立ちながらも、1度も安打を打つことができなかった。「次からはお前がチームを引っ張っていくんだ」。高橋選手も、別の先輩からこう告げられたことを今でも覚えている。 先輩たちは目に涙を浮かべながらも、決して後輩たちを責めることはなかった。「3年生のためにも必ず甲子園に行こう」。下級生たちは、さまざまな思いを抱きながら、球場を去った。 明徳戦翌日、新チームの方針や目標を話し合うミーティングで決めたチームのテーマは「下克上」。前チームで主将を務めた吉岡七斗選手や森木投手といった、柱になる選手が自分たちの代にはいない。「自分たちは弱い。決して『上』ではないんだ」という素直な思いから出てきた言葉だった。 ◇ 4年ぶり19回目のセンバツ出場が決まった高知。さまざまな試練を乗り越え、遠ざかっていた夢舞台への切符をつかんだナインたちの「軌跡」を3回にわたって紹介する。【小宅洋介】