「日本型雇用」はいよいよ変われるか…「ジョブ型で全部解決」とはいかない根深い構造
定年後の長い延長戦をどう過ごすか
今後、企業における雇用システムはどのようなものになっていくだろうか。 おそらく、しばらくは日本型雇用の仕組みを基礎としながらも、その仕組みの修正を長い年月をかけて緩やかに進めていくといったシナリオになるのだろうと考えられる。 その背景としては、第一に、仮に年功序列などの仕組みを廃し、実力主義やジョブ型雇用を徹底することが理論的に好ましいという結論を得たとしても、企業が行動を変えるのはそう容易ではないからである。 一企業の雇用システムを変えようとしたとき、政治的にそれが実現できるかといった問題がある。実力主義の会社にしようと経営陣が提案したとしても、それによって損をする従業員が多く発生してしまう場合には、労働組合は反発するだろう。全社的な合意を得たうえで、雇用制度を変えていこうとするプロセスには多くの困難が生じることが予想される。 また、移行を一気に進めた場合に生じる弊害にも目配りする必要がある。人事制度の急激な変化によって、若い頃は年功序列で我慢を強いられてきたにもかかわらず、中高年になってその恩恵に浴することができない世代が必ず発生してしまう。制度の移行によって損をする世代を時代の犠牲者だとして割り切ることは、良いか悪いかは別として、多くの企業にとっては実際問題として難しいだろう。 1990年代から2000年代にかけて模索された成果主義も日本企業には十分に定着しなかった。成果を出し続けなければならないという精神的な負荷の高まりや、他者との協調を図る組織風土の劣化など、実際に導入してみると多くの企業でその弊害が目立ち、成果主義は日本の雇用のあり方を抜本的に変えるまでには至っていない。日本企業の年次管理の対案として提案されることが多い成果主義や能力主義であるが、こうした仕組みもそもそも万能ではない。 問題の根幹は、評価にある。企業において能力・成果が高いのはどの従業員でそうでないのはどの従業員か、明確な線引きをすることは現実問題として難しい。降格をいかにして納得してもらうのかも大きな問題である。職位が下がるのはあなたの能力や成果が低下したからだという説明を、人事や上位者が一人ひとりに説得力を持って行うことができるのか。年次管理を廃し実力主義を徹底すれば、自身の処遇に疑問を感じモチベーションを落としてしまう社員がますます増える可能性もある。 こうした成果主義や能力主義が生み出す現実的な問題を踏まえると、良くも悪くも多くの企業は今後も緩やかに年次管理を続けていくことになるのではないか。そのようななかで、継続雇用下においても成果に基づいて賃金も少しずつ弾力的に運用していくという方向が、多くの企業人事が取りうる現実的な解になるだろう。 仮に継続雇用が70歳まで延ばされるようなことになれば、定年後の延長戦は実に10年もの長期にわたる。定年後の10年近い延長戦をどう過ごせばよいか、多くの人がそれに悩むことになる。70歳ならまだしも、将来は75歳、80歳とさらに延びていくのか。生涯現役時代における終わらないキャリア。企業人事も、働く人たちも、迫りくる現実への動揺を隠すことはできない。 つづく「多くの人が意外と知らない、ここへきて日本経済に起きていた「大変化」の正体」では、失われた30年を経て日本経済はどう激変したのか、人手不足が何をもたらしているのか、深く掘り下げる。
坂本 貴志(リクルートワークス研究所研究員・アナリスト)