漫画編集者が考える『呪術廻戦』完結の意味 人気作が“潔く終わる”傾向は歓迎すべきか
「週刊少年ジャンプ」で連載中の『呪術廻戦』(芥見下々)が9月30日発売号で最終回を迎えることが発表された。 【画像】『呪術廻戦』『ONE PIECE』から『スラムダンク』、『進撃の巨人まで』ーー『アイシールド21』作者によるコラボイラストがすごい 残すところあと5話。突然の発表に多くのファンが戸惑っている状況だが、業界内ではかねて「年内完結」の噂が流れていたという。漫画編集者で評論家の島田一志氏は今回の発表について「あまり驚きはなかった」としつつ、6年半という連載期間を駆け抜けた大ヒット作に拍手を送る。 「『鬼滅の刃』(吾峠呼世晴)が好例ですが、特に近年のジャンプは大ヒット作でも引き延ばさず、作家が“ここだ”と決めたところで潔く作品を終わらせる傾向にあります。作品全体のクオリティを考えれば、少なくとも蛇足のような話が延々と続いてしまうよりずっといい。“急だ”と感じる方もいるかもしれませんが、同時期にジャンプを牽引した『鬼滅』や『チェンソーマン』(藤本タツキ)が誌面を去るなかで、『呪術廻戦』は十分に大きな役割を果たしたと思います」 商業的に考えれば当然、人気作は長く連載を続けるのが好ましいという面もあるが、結果としてマンネリ化するなど作品全体の評価を落としたり、作家を疲弊させてしまうケースもある。作品ファーストで潔く完結させ、完成度の高い“原作”としてアニメ、映画、実写ドラマなどメディアミックスやグッズ展開で収益を作りながら、作家は心機一転、新たな作品に取り組むというサイクルができれば理想的かもしれない。 「またこれは私見ですが、少年漫画/少女漫画は、リアルタイムの読者である少年・少女が、少年・少女であるうちに完結するのが好ましいと考えています。もちろん、10年、20年と続く名作は数多くありますが、主人公たちの年齢を大きく追い越し、大人になってから振り返るように完結を見るのではなく、読者が作品とともに成長し、共感可能な時期に区切がつくというのも青年漫画と違う魅力の一つなのではと。その意味でも『呪術廻戦』は望ましい長さだったのではないかと思います」(島田氏) 一方で、『呪術廻戦』には新たな物語を生み出す構造が備わっており、次世代の読者とともに再び歩みを進める可能性もあると、島田氏は言う。 「そもそも『呪術廻戦』は、『ジャンプGIGA』に掲載された『東京都立呪術高等専門学校』をプロトタイプ&前日譚としており、連載に際して主人公を乙骨憂太から虎杖悠仁にシフトさせて成功しています。“呪術高専”というハコさえあれば、いつでも新しい主人公で新しい物語を始めることが可能ですし、今回は、先への期待を残しつつの潔い完結と言えるのではと。ただ“芥見下々が描く新しい世界を見てみたい”という思いもありますし、いずれにしても、まずは今年の漫画業界で最大の話題になり得る『呪術廻戦』の結末を見守りたいと思います」 人気の絶頂と言っていいタイミングで完結を迎える『呪術廻戦』。「もっと続きを読みたい」というファンが多いのも当然だが、芥見下々という異才が次にどんな作品を生み出してくれるのかーーそんな新しい楽しみが生まれたとも考えられそうだ。
橋川良寛