『ドキドキAI尋問ゲーム』などを手がけたヤマダを支える「誰かを喜ばせる」という目的 アイデア出しに苦悩し、努力し続ける実像とは
リアルサウンドテックの連載「ゲームクリエイターの創作ファイル」では、“ゲーム作り”にフォーカスしてクリエイターたちにインタビュー。その真髄に迫っていく。 【画像】AI尋問から前代未聞のハイスピードアクションまで…ヤマダ氏が開発したバラエティ豊かな作品たち 第4回は、『ドキドキAI尋問ゲーム』『ウーマンコミュニケーション』といった話題作をひとりで開発したヤマダ氏にインタビューを行った。スクウェア・エニックスやディー・エヌ・エーでゲーム開発に携わり、独立してふんどしパレードを設立。現在は個人でゲームを開発するという多種多様な経歴を持つヤマダ氏の等身大の苦悩や努力、そして今後の活動について話を聞いた。(堀江くらは) ■AIの不完全さを逆手に取った『ドキドキAI尋問ゲーム』の設定 ――ヤマダさんはこれまで、さまざまなゲームに携わってこられたと思いますが、まず直近で完全版をリリースされた『ドキドキAI尋問ゲーム』について伺います。リリースした手ごたえはいかがでしたか? ヤマダ:『ドキドキAI尋問ゲーム』は複雑な経緯を辿っていて、過去に2回、無料公開していました。それに加えて完全版リリース時はChatGPTのブームからも1年近く経っていたので、お金を出して買ってくれる人はあまり多くないのではないかと思っていたのですが、予想以上に多くの人が購入してくださったり、配信もしてくれたりで、『ものすごくありがたい』と感じています。ただ、本作は海外でのヒットを狙っていたのですが、そこは上手くいかず悔しいですね。 ――たしかに、本作のようなインディー作品を海外でヒットさせるのは難しそうですね。 ヤマダ:日本の場合はSNSで話題になって、それをメディアさんが取り上げてくれて、さらに配信者の方のプレイしてくれたら、ほかの配信者がさらにプレイしてくれたり、視聴者の方が買ってくれたりといった循環があると思うんです。その循環に本作や『ウーマンコミュニケーション』はある程度乗ることができたと感じています。でも、海外では作ったゲームに対する認知を広げる道筋がまだ掴めていなくて、今後どうしていくかはちょっとした悩みです。 ――『ドキドキAI尋問ゲーム』はChatGPTを用いています。ChatGPTを用いたゲームを作ろうと思ったきっかけを教えてください。 ヤマダ:2023年の春ごろのChatGPTが大流行していたタイミングで、これを活用すれば独自性のあるゲームを作れるかもしれないし、もしできたら注目してもらえる可能性もあると思い、ゲームのアイデアを考えていました。それに、当時からChatGPTのAPI(※)も公開されていましたから。 ※API…アプリケーション・プログラミング・インターフェースの略。ソフトウェア同士が情報をやり取りする際に使用するインターフェース。APIを活用することにより、『ドキドキAI尋問ゲーム』ではゲーム内の尋問にChatGPTのシステムを導入している。 ――そんななかで『ドキドキAI尋問ゲーム』のアイデアが浮かんだんですね。 ヤマダ:はい。世に出ていたAIを使ったゲームを見てみると、すでに人間で実現できていることを、AIに置き換えた形のものが多い印象がありました。Q&A方式のものや、AIにゲームマスターをやってもらうタイプのものですね。こうしたゲームは「人間とやったときの面白さ」とあまり変わらず、しかもAIの挙動が不完全だと減点されていきがちで、作る面白みを感じづらかったんです。そういったものより、AIを用いることでそれまで実現できていなかった体験や、AIの挙動が不完全でも逆に面白くなるようなゲームを提供できないかと考え、たどり着いたのが『ドキドキAI尋問ゲーム』です。 ――尋問という舞台設定のアイデアはどこからでてきたのでしょうか? ヤマダ:AIを使わないと体験できないことをあれこれ考えるなかで、自然と尋問というアイデアにたどり着きました。 ――本作をプレイして「スタンフォード監獄実験(※)」を連想しましたが、これもキーワードに含まれていたのでしょうか? ヤマダ:そうですね。当時エンジニアの中ではやっていた「ChatGPTにどんなプロンプト(ユーザが入力する指示や質問)を投げれば良い回答を得られるか」といったノウハウのなかに「あなたは優秀な◯◯です」と最初に決めつけるものがあったんです。 「あなたは優秀なゲームクリエイターです。ゲームのアイデアを教えてください」みたいに質問すると、普通に質問するのとは違った返答がくるというものですね。自分もそういう風にChatGPTを使っていたんですが、あるとき「同じことを人間にやったら、ちょっと残酷だな」と考えたんです。 そこで、ある種の皮肉として、ゲームの冒頭でプレイヤーに対して「あなたは優秀な警察官です」と決めつける導入を思いつき、そこからスタンフォード監獄実験が連想されて、アイデアが膨らんでいったというところもあります。 ※スタンフォード監獄実験…アメリカ・スタンフォード大学で行われた、心理学の実験。刑務所を舞台に、普通の人が特殊な肩書きや地位を与えられると、その役割に合わせて行動してしまうことを証明しようとした。 ――「尋問」という設定は、多くの人が試したであろう「ChatGPTとの会話」をゲームに落とし込むのに最適な設定だと感じました。 ヤマダ:尋問を舞台設定にすれば、AIがトンチンカンなことを言っても怯えているようにも見えるし、突然英語で喋りだすような不完全な動作さえも笑いどころになると思ったんです。 とはいえ、AIだけの返答に頼ると、ただ言葉のキャッチボールをしているだけの捉えどころのないゲーム体験になりやすいと思ったので、ゲーム的な演出などでプレイヤーがゲームの進行や盛り上がりを感じやすいようにするための工夫は頑張りました。 たとえば尋問が進むごとに音楽が盛り上がる、キャラのモーションが怯えたように変化する、ナビゲーターが次の尋問のヒントを出してくれるなど、従来のゲーム的な演出で下支えすることで、AIとの対話をより楽しみやすく工夫しました。 ――AIやChatGPTを使っていくなかで、難しいと感じたことはなんでしょうか? ヤマダ:ChatGPTは一見すると優秀そうなんですが、思い通りに動いてくれないことも多いんです。たとえば、本当は隠されている事件の真実があって、ある条件を満たすとそれが明かされるとか、それをAIが嘘で隠そうとするーーそんな尋問を体験できるシナリオも模索したのですが、最初の質問で全部喋ってしまい成立しないなんてこともありました。 複雑なロールプレイをさせるのは難しいと思ったので、真実をプレイヤーが作っていくようなゲーム体験に寄せ、それに合わせて事件については『酒を飲んでよく覚えていない』ことにして、プレイヤーに聞かれたことをAIが返答で膨らませていくようにするなど、AIの設定を細かく調整していくことが必要でした。 ■「アイデア出し」に自信がないからこその修行 ――『ウーマンコミュニケーション』についてもお聞きします。本作はゲーム配信を含めて大きな反響があったかと思います。最初に“バズった”当時はなにを感じましたか? ヤマダ:当時の自分は、面白いと思えるゲームを作っても、ユーザーにとって面白そうに見えないと手に取ってすらもらえないという挫折を経験していて、『面白そう』なゲームのアイデアをひたすら考える修行みたいなことをしていました。 そんななかでたどり着いたのが『ウーマンコミュニケーション』のアイデアで、実際に世の中の人にはどう見えるかを試そうとXに投稿したところ、予想以上にバズり、ニュースサイトが取り上げてくれたり、Wikipediaに項目までできたりしました。『面白そう』に見えることが重要だとは思ってはいたものの、ツイートひとつでここまで人を動かすとは考えてもいなかったので、「バズるアイデアはこんなにバズるのか」ということを初めて身をもって学びました。 ――『アイデアを考える修行』とは具体的にどのようなことをしているのですか? ヤマダ:主にやっていることは、面白そうだと感じたゲームやエンタメ作品をピックアップして、それがなぜ面白そうに感じるのかを分析し、抽象化して、その構造を使って別のアイデアを考えてみる、というトレーニングです。ゲームはもちろん、映画や漫画、アニメからドラマまで、ジャンルを問わずさまざまなジャンルのエンタメ作品に対してこれを繰り返し行っています。 これを続けていると、面白そうだと感じる構造のパターンみたいなものが見えてくるようになり、思ってもみなかったようなアイデアも出やすくなるので、非常に有効だと思っています。 ――ヤマダさんのゲームは、ストーリー上でのまさかの展開や、ラストで打ち出されるメッセージなどが印象に残りますが、そうした部分のアイデアは制作のなかで生まれてくるものなのでしょうか? ヤマダ:まずはユーザーがゲームに期待するであろう要素をしっかりと制作します。そのうえで、さらに良いゲームだと思ってもらいたいですし、個人的にプレイヤーを驚かせたいという気持ちもあるので、何らかの「裏切り」をあとから加えています。 「裏切り」の要素を考えるうえで、「期待値の黄金比」みたいなものがあると思っていて、それを意識しながら制作しています。ゲーム全体の7割くらいはユーザーがそのゲームに期待しているであろう内容で構成し、残りの3割で裏切るのがいいバランスなのではないかと考えているんです。その裏切りの中身は、2割がホラー要素のような、ちょっとダークなものにして、残りの1割はそのダークさを反転させるような、ポジティブだったり、ハッピーなものにすることが多いですね。 こうした考えを基盤として、裏切りのパターンを考え、盛り込んでいくことが多いです。自分が最近作った作品の中でそれが最もバランスよく収まっているのは『ぼくとAIのなつやすみ』という作品だと思います。 ――ヤマダさんのゲームはどれも『アイデアがスゴイ』というイメージがありますが、こうしたトレーニングや、「期待値の黄金比」といった考えのなかで生み出されてきたんですね。 ヤマダ:『アイデアがスゴイ』と言っていただけるのは大変光栄ですが、自分はむしろアイデア力にまったく自信がありません。それでもゲームを作るうえで魅力的なアイデアが必要だと思っているので、必死にトレーニングをしてアイデアをひねり出しているような状態です。 『ドキドキAI尋問ゲーム』や『ウーマンコミュニケーション』はたまたま良いアイデアを生み出せましたが、それが自分のハードルになってしまっている気もしています。壁を越えようとすると、どんどんハードルは上がってしまうので、このあたりで一度、肩の力を抜いて自分のハードルを下げた方がいいのかなと、悩んでいるくらいです。 ■インディーゲーム制作では、配信文化の恩恵は無視できない ――少し話を戻しますが、制作されたゲームが話題になった際、多くの配信者がヤマダさんのゲームをプレイしました。ご自身のゲームの配信を視聴した感想をお聞かせください。 ヤマダ:普段はあまり配信を見ませんが、『ドキドキAI尋問ゲーム』や『ウーマンコミュニケーション』の配信はこっそり視聴しています。これまでいろいろな配信を拝見しましたが、優れた配信者さんはゲームを本物以上に面白く見せてくれる力があると感じました。自分で作ったゲームの配信を見ていても「このゲーム、こんなに面白かったっけ」「感動的なストーリーだなぁ」と思ってしまう瞬間が多々ありました。ゲームの面白いところはさらに面白くしてくれるし、退屈な部分はそうと感じさせないようにカバーしてくれる……。配信者さんは「その時間そのものを面白くするプロ」なんだと知ることができました。そういった配信を見て、私のゲームの内容を知った人は、実際に購入してプレイした人の数十倍はいるんじゃないかと思います。 ゲーム配信に関してよく、「配信の影響でゲームは売れるか、売れなくなるか」といった議論がありますが、「売上」ではなく、「評価」という面でもありがたい影響があるんじゃないかと最近は思っています。配信者さんの力によって、ゲームがより面白く、魅力的なものとして視聴者の方に届くこともありますから。 ――特に印象に残った配信者はいらっしゃいますか? ヤマダ:特定の配信者さんの名前はちょっと出しづらいのですが、ある方は配信スタイルが『ウーマンコミュニケーション』と相性がよく、プレイするなかで配信者さんの個性がいつも以上に発揮され、その結果配信が盛り上がっているように感じました。こんな風に、ゲームと配信者さんの間で化学反応が起きると、ゲームの作り手としてもうれしく感じます。 ――ちなみに、配信者さん以外の、一般の方の反応で印象深いものはありましたか? ヤマダ:日常のなかにある言葉に、うっかり淫語が生じてしまう現象が『ウーマンコミュニケーション』と呼ばれているのを見たのはうれしかったですね。 ――ゲームのタイトルがそのまま現象の名前になったんですね。 ヤマダ:そうなんです。ゲームをプレイした人の日常のなかに、プレイ後もゲームが残り続けている。そんなゲームになったことがうれしいです。 ――お話にあったとおり、ゲームの売上や評価に関して、配信は大きな影響を与えていますし、その影響力は日々増していると思います。『ウーマンコミュニケーション』に限らず、ゲーム開発において、どこまで配信されることを意識されていますか? ヤマダ:『ウーマンコミュニケーション』のアイデアを考えていたときは配信についての知識がなかったので、あまり考えていませんでした。しかし、周囲の人から「このゲームは配信で盛り上がりそうだ」という意見をたくさんいただいて、そこからモザイク機能や診断機能などの配信向けの機能を追加していきました。 『ウーマンコミュニケーション』で配信の力を痛感したので、『ドキドキAI尋問ゲーム』ではより配信を意識して、フリーワード入力やキーワード縛りのハードモードといった機能を取り入れました。 ――今後も配信を意識したゲーム制作を続けていくのでしょうか? ヤマダ:今後作るゲームも配信のことは必ず念頭に置くと思います。ゲームは、主流のビジネスモデルと合致したものを作った方が戦いやすく、逆に言えばそれを外してしまうと戦いづらくなる可能性のあるコンテンツだと思っています。たとえば、日本のスマホゲームなら基本プレイ無料で、課金要素としてガチャがあるというのが“王道”で、そうでないものは相対的に成功事例が少ないと思います。同じように、インディーゲームにおいては、配信文化をしっかりと意識した方が恩恵が大きいと感じています。 そうした現状と方向性が合わないクリエイターもいるとは思いますが、自分は、先ほど話したように配信からさまざまな利益をいただいていることもあるので、ぜひ自分のゲームを配信してほしいですし、うまく配信文化と噛み合うようなゲームを作っていきたいなと思っています。 配信文化と上手くマッチさせるには「配信したくなること・配信が盛り上がること・配信を見てもなおプレイしたくなること」の3つが重要だと感じています。これをどう盛り込んでいくかは強く意識していますね。 ――実際のゲーム制作のなかで、その3点をいかに実装していくのでしょうか? 特に「配信を見てもなおプレイしたくなること」は非常に難しく感じます。 ヤマダ:たしかに、その部分が一番難しいですね。私は配信で見たことがゲームのすべてではなく、配信を見た人に『自分がプレイしたらどうなるだろう』『自分でもチャレンジしてみたい』と思ってもらえることが重要だと思っています。たとえば『ドキドキAI尋問ゲーム』ではフリーワードで質問ができるので、配信者の尋問の手順などを見て、『自分だったらこんなワードで質問をする』『自分はもっと上手く尋問できる』と思ってもらって、そこからプレイにつながるのではないかと考えました。 ーー配信したくなること・配信が盛り上がることの2点に関しては、ゲームがバズるかどうかが重要になりそうですね。 ヤマダ:話題になっていて面白そうなゲームで、視聴者も見たがるゲームが、配信したくなるゲームのひとつではあると思います。配信の盛り上がりに関しては、プレイ中にその配信者さんの個性が発揮されるような場面があることが重要ではないでしょうか。これに関しても、フリーワード入力は相性がいいですね。 ■それぞれのゲームで最も苦労した部分 ――それぞれの作品の制作で最も時間がかかった部分、苦労した部分を教えてください。 ヤマダ:それぞれほかのゲームにはないオリジナルな部分があり、そこが一番時間がかかりました。参考事例がないため、「どんなものが良いか」の基準から考えていかないといけないので。 『ウーマンコミュニケーション』では、淫語の登場頻度や発見する際の難易度、どんなステージが面白いのか、イマイチだと感じたステージは、なぜイマイチなのかといったことを、制作のなかでプレイしながら試行錯誤していくのが大変でしたね。頻度などの細かい部分は無限の可能性があるので、ある程度の基準が見えてくるまでかなりの時間を費やしました。 ーー開発のなかでアイデアが生まれることも多いとは思いますが、『ウーマンコミュニケーション』のダブルショット(1文に2つの淫語があり、それを両方発見した際の派手な演出)や、涙が落ちてくるようなステージ等は開発をしながら思いついたのでしょうか? ヤマダ:はい。ダブルショットに関してはステージや例文などを作っていくなかで、2つ重なってるものが『すごい』と感じたので、それをどこで出し、どう演出するかを考えた結果、めでたい感じが出るようにしました。涙が落ちてくるようなステージの演出は、ボスステージとしてメリハリが欲しいと制作中に思ったのがきっかけでしたね。 ーー涙の弾幕には『UNDERTALE』の影響を感じました。 ヤマダ:実際、『UNDERTALE』は影響を受けたゲームです。一般的な弾幕シューティングは人を選ぶ部分もあるゲームジャンルだと思いますが、「弾幕を避ける」という行為だけを切り出すと、実は生理的に気持ちいい行為で、多くの人が楽しめるものだと、『UNDERTALE』をプレイして感じていました。『ウーマンコミュニケーション』のボスステージの方向性を検討しているなかでそのことを思い出し、淫語を撃ちながら弾幕を避けるというのは足し算のバランスとして感触が良さそうだと思ってたどり着きました。 ――『ドキドキAI尋問ゲーム』では、なにが難しいと感じましたか? ヤマダ:先ほども話題にあがった、AIとの対話を面白くすることです。どんな対話が楽しいか、あるいは退屈に感じるのかの条件を考えたうえで、それをChatGPTで実現しないといけない。しかもプロンプト通りにAIが動くとも限らないので、書き方や命令の順番なども変えるような試行錯誤が続きました。 楽しい対話と感じるのは、こちらの質問に対し、膨らませて返してくれるときのことが多く、逆に退屈だと感じるのは話が通じなかったり、こちらの言葉を返すだけで、“のれんに腕押し”みたいになってしまうときでした。こうした考えをもとにプロンプトを調整し、AIの応答を理想に近づけていく作業は大変でした。 ――最近ではAIが賢くなり、本作の体験も意図せず変化していると聞きます。 ヤマダ:OpenAI側の新しいモデルの公開があり、モデルの切り替え作業をした結果ですね。何もしていないのにAIがすごくお喋りになって、お喋りになりすぎたので少し言葉数を抑えるような調整が必要なくらいでした。AIの進化や技術革新でゲームが変化していくのは面白いですし、今後もちょっと楽しみですね。 ■本格的にゲーム作りに没頭するようになったのは「RPGツクール」とインターネットのおかげ ――ここからは、ご自身のゲームクリエイターとしての活動について伺いたいと思います。まず、現在のゲーム開発環境について教えてください。開発はひとりで行っているのでしょうか? ヤマダ:ほぼひとりで開発しています。たまに妻に相談に乗ってもらったり、デザインやテキスト作成を手伝ってもらったり、ボイスを入れてもらったりしています。あと、テストプレイは周囲の人にお願いしています。 ――『ウーマンコミュニケーション』も奥さんに好評だったのでしょうか? ヤマダ:めちゃくちゃウケが良かったです(笑)。最初の手応えは妻の反応から得ることができました。ちなみに、『ウーマンコミュニケーション』のタイトル画面の歌や、『ドキドキAI尋問ゲーム』のナビゲーターの声は妻に担当してもらっています。 ――ひとりでの制作で苦労すること、逆によかったと思うことはなんでしょうか? ヤマダ:「自分ひとりでできること」というのがアイデアの制約になってしまっている面はありますね。インディーゲームのなかには、ビジュアルの魅力によって作品全体の魅力が際立つタイプの企画もあると思うのですが、私は絵が描けないので自然と諦めてしまっています。 逆に、ひとりだとどんな突飛なアイデアにもGOサインを出せるのがメリットですね。『ウーマンコミュニケーション』のような企画は、チーム開発ではGOサインが出なかったと思います(笑)。デザイナーさんと組んでみたら幅が広がるのかもしれませんが、ひとりの利点もあるので、いまはちょうど悩んでいる最中ですね。 ――ヤマダさんの制作した『ぼくとAIのなつやすみ』は画像生成AIを使用していますが、グラフィックの問題を画像生成AI等で解決するのは難しいのでしょうか? ヤマダ:できるといいのですが、現状だと難しいと感じています。完璧にこちらが欲しいものを出力してくれるわけではありませんから。『ぼくとAIのなつやすみ』というゲームは、変な絵や不気味な絵が出力されることも含めて、ゲームの面白さにつなげてしまおうという企画でした。だからこそ成立した作品なので、普通のゲームで画像生成AIだけでグラフィックの問題すべてを解決するのはまだ難しいと思っています。 ――ゲーム作りのルーツが子どものころにプレイした「RPGツクール」シリーズにあると伺いました。当時の思い出や、ゲーム作りに没頭するようになったきっかけはありますか? ヤマダ:自分の作ったもので人に楽しんでもらうことが、子どものころから好きでした。最初は『ドラえもん』が好きで、自分で考えた『ドラえもん』の映画のストーリーを小説で書いて、それを親や友人に読んでもらっていました。その感想を聞くのがうれしかったですね。 その後、ゲームで遊ぶようになると、今度は自分で考えたゲームのシナリオを書くようになり、それを本当にゲームにしたいと思ったタイミングで「RPGツクール」と出会ったんです。 本格的にゲーム作りに没頭するようになったのは、「RPGツクール」とインターネットのおかげです。作ったゲームをネットで公開するようになり、見ず知らずの人から感想メールをもらったときの感動はいまでもよく覚えています。フリーゲームがそれほど多くない時代に、中学生が作った出来もそこまでのゲームをわざわざ探して遊んでくれて、「感動しました、泣きました」といったメールを送ってくれる人がいたんです。それが強烈な体験として残っていて、ゲーム作りに没頭していきました。 「自分が作ったもので人に楽しんでもらう」ということと、ゲーム作りの相性がよかったんだと思います。そのうれしさをずっといまも追いかけ続けているような感じです。 ――いまでも反応が来るとうれしいですか? ヤマダ:もちろんです。いつになっても変わりませんね。ゲームの感想はもちろん、自分のゲームが配信で盛り上がっているのを見たときも『作ってよかったな』と感じます。 ――スクウェア・エニックス、DeNA、ご自身で経営されたふんどしパレードとキャリアを歩まれていますが、これまでのキャリアは現在のゲーム開発にどうつながっていますか? ヤマダ:身に着けたノウハウのなかでも、最も役立っているのは学生時代にRPGツクールでゲームを作っていた経験だと思います。そのときに自分でいろいろ考えながら制作することで得たものを応用しながら、ゲーム会社でも、自分の会社でもゲームを作り続けてきた気がしています。それはいまでも同じですね。 すべてのキャリアがいまのゲーム開発につながっていますが、そもそもこんなキャリアを歩むことになろうとは思っていませんでした。就職も起業も、そこから独立してまたひとりでゲームを作ることになることも、本当に行き当たりばったりというか……気づけばそうなっていたという感じです。いまはひとりでゲームを作っていますが、ここが終着点なのか、また次の展開があるのかどうかも分かりません。 ――大企業からの独立は大きな決断だったと思います。 ヤマダ:勤めていた会社を辞めるとき、周囲の仲間の何人かが独立して、個人でゲームやアプリを作り出していたんです。それを見て「自分もやってみたい」と思いましたし、自分の作るものに自分の時間を全部使ってみたらどうなるか試してみたいという好奇心が強かったですね。 先輩と2人で設立したふんどしパレードから独立した際は、会社が十分に大きくなって自分の役割が果たされた気がしてきていましたし、会社にとっても自分にとっても再出発のタイミングかなと感じたので、相談したうえで独立という選択を取らせていただきました。 私は先のことはあまり考えていないんですけど、キャリアの節目節目で必然的だと思える選択肢を選んでいて、それが次のキャリアになっているというような、そういう人生が続いていますね。 ――大企業のメンバーから経営者、個人での開発者とさまざまな立場を経験されていますが、それがゲーム開発に活かされている部分はありますか? ヤマダ:私は自分のことを「器用貧乏であまり面白みのないクリエイター」だと思ってるんです。もともと「RPGツクール」でゲーム作っていた人は、自分1人で多くのことやらなきゃいけないので器用貧乏になりやすいと勝手に思っているんですが、自分はさらに企業でコンシューマゲームやソーシャルゲームを作ったり、経営したりといろいろな経験が重なったので、その結果、器用貧乏さがより際立つことになったと感じています。でも、ひとりの立場に戻ると、そういう器用貧乏さもプラスに思えますね。いまは自分ですべてを考えて、自分でやる必要があるので。 ――ご自身の人生において、最も影響を受けたゲームとその理由を教えてください。 ヤマダ:『リンダキューブアゲイン』です。惑星が滅びるまでに動物を集めて脱出するヘンテコなRPGで、悪の大王もいないし、主人公には世界を救うこともできない。そんな“変さ”に魅力を感じています。でも、ゲーム内容以上に影響を受けたのは、開発者の桝田省治さんがウェブ上に掲載していた開発コラムですね。 当時は、開発者が開発の裏話を赤裸々に書くことは珍しかったですし、プロのゲームクリエイターが考えていることを知る手段も少なかった時代です。そんななかで、作りたいゲームをただ作るのではなく、それを商品としてどうやって考え、組み上げていくかという、プロのクリエイターの脳内を知ることができたのは、自分がその道を進んでいくうえでの指針や参考になりました。 また、ゲームを作る際に、キャラや世界観から入るという人は多いと思うのですが、桝田さんはその逆をやっているように私は感じています。やりたいことがまずあって、それを成立させるためのパーツの組み合わせを考えていくといったような感じですね。そういう作り方も影響を受けた部分です。 ――それでは、直近のゲームで感銘を受けた作品はありますか? インディーゲームクリエイターだからこそ感じた“すごさ”があれば教えてください。 ヤマダ:『8番出口』ですね。すごいところはたくさんありますが、インディーゲームクリエイター視点だと「無駄のなさ」に感銘を受けました。基本ルールと、地下通路と、異変のパターンというコンパクトな要素で成り立っていますし、唯一のキャラと言ってもいい「おじさん」も絶妙なアクセントになっています。配信も盛り上がるし、配信を見た人も遊びたくなる、バランス面でも見事なゲームです。 インディーゲームクリエイターは、コストや自分でできることといった制約のなかで、どこに力を入れるかを考えなければならないことが多いと思いますが、『8番出口』はコンパクトな構成要素に一切無駄がなく、最大の効果を発揮しているように感じます。取捨選択の仕方や、どういった要素があれば作品に魅力が宿るのかといった点で、制約の多いインディーゲームクリエイターほど参考になると感じました。 ■「作りたいゲームを作る」より、プレイヤーを喜ばせたい ――ゲーム作りにおいて最も大切だと考えていること/欠かせないことはなんでしょうか? ヤマダ:目的をはっきりさせることです。ゲームは作るのにとにかく時間がかかるので、目的に合致しないゲームを作ってしまうと膨大な時間を失うことになってしまい、つらい経験として残ってしまうこともあります。また、「ゲームを作る」ことの目的が多様化した現代では、SNSでは目的の違う人が議論をして噛み合っていないことも多いように感じます。 だからこそ、「自分はなんのためにゲームを作ろうとしてるのか」という目的を明確にして、意識しながらゲームを作っていった方が、制作者自身も幸せになれると思うんです。 ――ヤマダさんの現在の「目的」はなんでしょうか? ヤマダ:根幹にあるのは常に「プレイヤーの方を喜ばせたい」ということですね。その上に乗っかるものが、その時々によって変化しています。自分自身のキャリアを振り返っても、その時々で、さまざまな目的でゲームを作っていました。ゲーム会社にいたときは、当然会社から求められたものや、働き方みたいなものが目的になりますし、会社を経営していたときは事業のなかで目的が出てきます。 ひとりで開発するようになってからも、『ウーマンコミュニケーション』は「面白そうに見えるアイデア」をとことん追究してみるということが大きな目的でした。『ドキドキAI尋問ゲーム』では、新しく登場したChatGPTを使って、どんなユニークなゲームを作れるかチャレンジすることが目的でした。 こんな風に、「プレイヤーの方を喜ばせたい」という目的が第一にあって、そこに毎回異なる別の目標がセットになっている感じですね。 ――「作りたいゲームを作る」より、プレイヤーを喜ばせたいという思いの方が強いのですね。 ヤマダ:実は自分には作りたいゲームというのがほとんどないんです。まったくないわけではないんですが、実際にアイデアを考える段階で「これを作ってもあんまり興味を持ってもらえないだろうな」と思うと興味が薄れてしまいます。インディーゲームの開発者は、「作りたいものを作る」というスタンスの人が多いので、自分にそれがないことはゲーム開発者としてコンプレックスでもありました。 ですが、最近とある文章に出会って少し気が楽になりました。糸井重里さんの言葉なんですが、糸井さんが東京藝術大学の学生さんから「作りたいものと売れそうなものどっちを作りますか?」という趣旨の質問を受けて、「『売れないもの』って、大雑把に言えば、『人に支持されない』『喜ばれない』『遊んでもらえない』場合が多いわけです。そしてぼくは『これを作っても支持されないだろうな』というときに『それでも俺はこれを作りたいんだ!』というような衝動って、自分のなかにはないんですよね」「『売れないものは作らない』というより、『やっぱり喜んでもらえるものがいい』ということが、まずありますね」という回答をされていたんです。 それを見て、私自身も作りたいものを作りたいんじゃなく、誰かに喜ばれるものを作りたいんだと、ゲームを作る目的みたいなものがはっきりして、考えるのが少し楽になりました。 ――ご自身の目的を踏まえたうえで、今後の創作活動で目指したいことはありますか? ヤマダ:いま作りたいと思っているのは「多くの人に面白そうだと思ってもらう」ことと「人生の一本になるような深い体験」を両立させるゲームですね。大変おこがましいですが、『UNDERTALE』のようなゲームがひとつの理想です。 『ウーマンコミュニケーション』でもそれを目指し、できる限り頑張ったのですが、やはり入口のトリッキーさゆえの限界のようなものを感じさせられました。それでも、『ウーマンコミュニケーション』を「汚いUNDERTALE」と評してもらったこともあり、自分としてはとても光栄に思っています。そう考えると、次に作りたいのは『綺麗なウーマンコミュニケーション』なのかもしれませんね。 ただ、実情では、かれこれ1年ほど企画を考え続けていて、それでも作るべきゲームのアイデアが見つからない状況が続いています。やっぱり、『ウーマンコミュニケーション』の壁を越えようとしてしまうといろいろ難しくなってしまって……。なので、高い理想は持ちつつ、今後は少し肩の力を抜いて何か作り始めるかもしれません。 ーーうれしい悲鳴……といっていいのか分かりませんが、やはり大きなバズを経験するとその次が難しくなるのですね。 ヤマダ:そうですね。繰り返すようですが、私自身はアイディアを出すのが苦手ですし、すごい才能があるわけでもない。だからこそ、アイデアを出す修行をしたりして、地道にいろいろ積み上げてここまでやってきたのだと思っています。 それでも、「RPGツクール」の時代から現在まで、こんなに長い間ゲームを作ってきたということは、きっと自分はゲームを作ること自体が好きなんだろうと、最近気が付きました。なので、自分が幸せを感じられるゲーム作りをこれからも続けられればいいなと思っています。
堀江くらは