介護状態を防ぐ「酒向メソッド」の高齢者トレーニングとは?【正解のリハビリ、最善の介護】
【正解のリハビリ、最善の介護】#51 高齢者で、筋肉、骨、脳神経をきっちりと鍛え続けている場合、認知症になる方はあまりおられません。しかし、鍛えることをやめてしまうと、認知症に進行する方がいらっしゃいます。つまり、「脳筋相関」があるのです。筋肉を動かすことは骨を強くして脳も動かすことになり、脳が刺激されるため認知症予防の効果があるとの報告もあります。 要介護認定の壁をどう乗り切るか…申請を嫌がる親への説得法 また、筋肉を鍛え続けることで、糖尿病を予防でき、肥満やそのほかの疾患も予防できる可能性が高いと考えられます。 50歳以上になると、毎年1%の筋力と筋肉量が減少するといわれ、80歳になると筋力は若い頃から30~50%低下します。 筋肉量は65歳以降に低下速度が加速して、80歳で30~50%の筋肉が失われるため、太ももが細くなり、おしりも小さくしわしわになってしまいます。80歳でも、弾力のある太ももとお尻を保つことが活動的な人生の基盤になり、歩行機能や転倒予防に極めて重要です。 高齢者の筋萎縮が抗重力筋で進行しやすいことは、すでにお話ししました。①頭板状筋(頭部を伸展・回旋する筋肉)②僧帽筋(背筋を伸ばして肩甲骨を安定させる筋肉)③広背筋(背中を覆う大きな筋肉で、腕を動かしたり、呼吸を助けたり、姿勢を維持する筋肉)④大腰筋(股関節を折り曲げたり、姿勢を保つ筋肉)⑤殿筋群(股関節を伸展、外旋、外転、内転する筋肉で、体重を支えて股関節を安定させる筋肉)⑥脊柱起立筋(体幹を伸展させる筋肉)⑦大腿四頭筋(太ももの表を形成する筋肉)⑧ハムストリング(太ももの裏を形成する筋肉)⑨ヒラメ筋(ふくらはぎの筋肉)の筋萎縮は、姿勢保持や基本動作を低下させます。とりわけインナーマッスルである大腰筋は萎縮しやすく、腰痛の原因にもなるため、意識して鍛えなくてはいけません。 ■個別のメニュー作成が必要 ここで、「科学」が重要になってきます。高齢者の筋力を維持するには最大筋力の20~30%以上の負荷が必要です。さらに、筋力を増強するには最大筋力の40~50%以上の筋力が必要になります。ですから、すべての人のすべての筋肉において、筋トレのプログラムは個別に作成しなければなりません。高齢者の筋トレには、セラピストやパーソナルトレーナーによるメニュー作成が必要なのです。 それでは、高齢者の筋トレは具体的にどのようにすればいいのでしょうか。筋トレには、高強度、中強度、低強度トレーニングがあり、そのすべてが有効です。 トレーニングには「RM法」を用います。RMとはレペティション・マキシマムの頭文字をとったもので、最大反復回数という意味です。ある決まった運動強度に対して何回反復して関節運動を行うことができるかによって、自分の最大の運動強度を判断する方法になります。1回持ち上げられる運動強度(1RM)の○○%の運動強度を表す時には、「○○%1RM」と表記します。 高強度トレでは、90歳の男女10人が高強度(80%1RMを8回が1セット)で週3日、8週間行った結果、筋肉の断面積が111%に肥大して、1RMが174%に増加しました。90歳代でも筋肉は増えて、筋力も増大するのです。 また、40~50%1RMを8回行う中強度トレでも筋肥大が得られました。さらに、20~30%1RMの低強度トレは体力のない虚弱高齢者に実践しやすく、10~15回を繰り返すことで筋力が増強できました。このため、筋力のない高齢者の筋力増強には、先に挙げた9種類の抗重力筋に対する中強度か低強度の運動メニューを8~10種類作成し、1セット8~15回を週2~3回、8週のプログラムで導入します。筋力を維持する目的では、週1回の継続でよいでしょう。 その際、大切になるのは有酸素運動です。有酸素運動は5分以上を継続することが基本で、一般的には、歩行、速足、ジョギング、トレッドミル、バイク、エルゴメーター、プレステップなどを行います。 われわれは、筋力とバランス、関節可動域を鍛える総合プログラムを40~50分間継続して行うことが重要と考えており、これが体力を増強する良好な有酸素運動トレーニングになります。この総合プログラムを実践できるセラピストやインストラクターを育成していて、全国に高齢者健康筋トレ環境を届けたいと考えています。ただし、90歳以上まで非介護を継続するために、選択するパーソナルジム週1回の料金は月1万2000円程度であることが大切と思います。 (酒向正春/ねりま健育会病院院長)