食でつないで(11月28日)
ひたすら明るい青春グラフィティを予想していたのだが…。NHK連続テレビ小説「おむすび」は、放映開始から2カ月が過ぎる。平成ギャルのドタバタ劇の底を、重苦しいテーマが貫く▼阪神大震災で被災した理容師一家の物語だ。家が壊れ、後ろ髪を引かれつつ九州に引っ越す。皆の心に癒えぬ傷がある。栄養士を目指す主人公の結[ゆい]は、どこかに無気力を抱えて育った。姉は親友を失ったショックから、立ち直れずにいる。災厄の痛みは容易に消え去りはしないものか。テレビの前で、思わず辛くなった県民もおいでだろう▼「食」こそが人を前に向ける。そう確信させる1枚の写真が先日、本紙に掲載された。地元産の米粉とサツマイモで菓子を考案した楢葉中生4人が並ぶ。みずみずしい笑顔と古里愛が詰まった甘味は、地域にとって最高の「栄養素」。町内の催事で販売したが、完売する人気ぶりだったという▼朝ドラの結は東日本大震災が起きる年、22歳になる。皆を元気にする調理の配合を身に付けているに違いない。人ごとと思えず、底冷えする3月の東北に足を向ける―。二つの被災地を食で結ぶ展開があれば、意外な青春グラフィティの味付けは満点だ。<2024・11・28>